第2話 寿司だけじゃない。ミートボールだけじゃない。Inte bara sushi, bara köttbullar heller.
概要にも書いたけど、僕の妻は日本人だとわかると、日本人は毎日寿司を食べているのかと本当によく聞かれる。
毎日生魚を食べるなんて、エンゲル係数と栄養バランスにかなり問題がありそうな気もするけど、それを疑わない程スウェーデンには日本という国を知らない人が多かった。
今僕が過去形を使ったのには理由がある。みんなも知っての通りここ最近、スウェーデンでは寿司ブームというか、日本食ブームが続いている。
寿司だけじゃなくて、日本食全体に皆の関心が集まっているという印象を受けるよ。妻のアキは家で日本料理を作ってくれるから、僕はそんなに珍しいとは思わないけれど、日本人配偶者を持たないスウェーデン人たちはこぞって、日本食の創作料理レストランに行くのがブームになっているみたいだ。でも家で日本料理を作るブームもそろそろ来るんじゃないかと思う。普通のスーパーにゆず果汁やポン酢も並ぶようになってきたしね。昔のスウェーデンから考えれば、第三次フードビッグバンだと実感するよ。ちなみに第一次はイタリアン、第二次はタイ料理と僕は考えてる。
日本食レストランに行くことはイコール、今のトレンドでお洒落、デートや記念日に家族で楽しむイベント、更には会社の親睦会にも、みたいなムードだよね。確かにスウェーデン人は、日本食は寿司だけじゃないって知ってる。でも、ブッフェの焼肉みたいに味が濃くてパサパサだったり、そんな食材絶対日本じゃ使わないよというものを出されたりしたら、アキはもちろん僕までがっかりしてしまうんだ。
アキはスウェーデンで創作日本料理を口にする度に〝味が濃すぎる〟〝手巻き寿司にこの値段?〟〝お寿司にチリソースなんて〟などとプリプリ怒る。せっかくの金曜日に素敵なデートをしたくて、サプライズ予約した人気レストランなのに。
まあ、アキは絶対文句を言うだろうって思ってたし、怒った可愛いアキを見ているのも本当に幸せなひと時だから、僕は口を挟まずニコニコと頷いて謝るだけだけど。わざと怒らせて機嫌をとる過程が楽しいなんて、僕はちょっと変わってるかな?
一度アキと一緒に日本に行った時、アキのご両親にとんかつレストランに連れて行ってもらった。とんかつというのは、ドイツ料理のシュニッツェルよりも分厚い豚肉にパン粉をつけて揚げた料理だ。あ、皆知ってる?スウェーデンでも普通にスーパーで売ってるPankoって、日本語なんだよ!
とにかく、ご両親と食べたそのとんかつはとても美味しかった。僕があまりにおいしかったって連呼するものだから、アキは別の日に僕を違うとんかつレストランに連れて行ってくれた。このとんかつは、中にチーズを入れて薄くスライスした豚肉を何重にも巻いて揚げたミルフィーユタイプだった。
僕が食べた料理の中で、世界一のひとつに数えられると確信できるほど美味しかった!箸はまだ上手く使えない僕だけど、ウェイトレスは快くフォークを出してくれたし、旨味のたっぷり詰まったソースももっとかけていいよと追加で持ってきてくれた。しかもチップを辞退したんだから、本当に驚きだよね。日本にはチップの習慣はないんだ。それなのに皆プライドを持ってこんなにもおいしい料理を提供してくれる。素晴らしいプロフェッショナルマインドだよ。とんかつも、もっとスウェーデンで流行らないかなと密かに願っている。
まあ日本に行った時の話は本当に長くなってしまうから、また別の機会にする代わりに、アキがスウェーデンで体験したスウェーデン料理のことも少し書きたいと思う。
アキは、最初スウェーデンという国がどこにあるのか知らなかったくらいだから(酷いよね!)もちろんスウェーデン料理のことも最初は全く知らなかった。
何が一番有名かと聞かれたら、僕はとりあえずミートボールって答えるかな。ミートボールなんて、どこにでもありそうなハンバーグを丸くしただけの平凡な料理だって、他の国から来た人によく言われるよね。でもほら、僕らには甘酸っぱいリンゴンベリージャムというのがあるじゃないか。きゅうりのピクルスに生クリーム入りのマッシュポテト、そして森で獲れるリンゴンの赤い実を砂糖で煮たジャムをミートボールと一緒に食べる幸せ。この旨味のコラボレーションは、スウェディッシュだけのものだ。でもこのリンゴンベリージャムをパンにつけたり、デザートに使うのはご法度だよ。時々スウェーデン人でさえもやる時があるから、本当に気をつけて欲しい。リンゴンベリージャムは、あくまで食事のソースだからね。
肉を甘いジャムで食べるって発想は、日本人にはないらしい。日本料理はたくさん砂糖を使うくせにね。でもアキがミートボールを初めて食べた時、〝料理の味を口の中で仕上げるなんて、スウェーデン料理は奥が深い〟って褒めてくれた。凄く嬉しかったよ。まあ、最も世界一おいしいミートボールは、アキの作ってくれた粗挽きミートボールと僕の自家製リンゴンベリージャムの組み合わせだけどね。
さて、皆はスウェーデン料理はもちろんミートボールだけじゃないのはわかってるよね。何がオススメかな?アキは〝日本にもあるIKEAのレストランのメニューがスウェーデンの代表料理じゃないの〟って言ってる。オーケー、確かにそうだね。エビマヨのオープンサンドとか、ニシンの酢漬けとか、トナカイのステーキとか。
トナカイを食べるなんて、さすが野蛮なバイキングの国だねってアキは笑うけど、意味がわからないな。僕だって、そのバイキングの国の男なんだよ。荒々しく他国に攻め入って、片っ端から美女をさらっていくから、スウェーデンには美女が多いって都市伝説は本当かもしれない。実際にアキだって僕に力づくで連れさられちゃったわけだし。なんてね。
でも例え代表料理でも、冷凍ものをスウェーデンの味だと思わないで欲しい。僕の手料理の方が断然おいしいよ。ここらへんの誤解は、ブッフェの乾燥した焼肉と条件は一緒かもしれないね。
僕はまた近々、アキの大好きな〝ヤンソン氏の誘惑〟を作ってあげるんだ。アンチョビとじゃがいものグラタンは、イタリアのものとは違うニシンのアンチョビと僕秘伝の手作り生クリームソースが味の決め手なんだ。もちろん食事の後はそのまま僕に誘惑されてくれると、何かと作りがいもあるんだけどさ。
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