Push

よしの

第1話 美しい地球

『大気汚染 温暖化 遺伝子組み換え 戦争 水質汚染 その他環境破壊… 全て人が大きく関わっている事と思います』

なぜか私は今、ボムという大きなパネル型AIに話かけている。

私はどうしたいと思ってるんだろう…。


「美しい地球にしたい。どうしたらいい?ボム」


『では、手元のキーボードに美しい地球と入力して下さい』


美しい地球…と云われた通りキーボードに入力した。 


『では今から美しい地球にしていきます。これから倍速シュミレーションで各地の映像がこのパネルでご覧頂けます』


画面には広大な森から何処かの研究所らしい映像と動物が写し出されていた。そして何処かの街の映像に切り替わる。

数時間が倍速で流れ、やがて男性が苦しそうにしている。知り合いと思われる女性に話かけている。

病室の映像に切り替わり先程の男性が呼吸器を付けている。パネルが4分割され様々な街の映像が写された。皆、風邪の様な症状で苦しそうにしていた。


「これの何処が美しい地球なんだ?ボム」


『気を悪くして申し訳ございません。でもこれはシュミレーションです。もう少しご覧下さい』


映像から世界地図に切り替わり、各国の感染者数と死者数がカウントされていた。更に画面が切り替わり各国の大統領や首相が険しい表情でスピーチし、閑散とした国々の街の様子が流れていた。

そして各国の株式が一部を除き軒並み下がっている。次に何処かの国の棺桶が無数に並んでいた。


「人が沢山死ねば地球が美しくなるという事なのか…」


『これはシュミレーションです』


そして各国の失業者や自殺者、犯罪発生件数の一覧へと変わっていった。

次に国別の二酸化炭素の排出量が減少されていくデータが写し出されていた。


「つまり何か致死率の高い強力な感染症が発生して人口が大量に減り、国を封鎖し、交通や工場も感染拡大を防ぐ為ストップし、二酸化炭素の排出量が減り

環境が改善するという事か…」


『いえ、違います。このシュミレーションではまず致死率の高い強力な感染症ではなく、致死率の高くない感染症が発生します。そして各国に人の往来を通じて感染者を増やしていきます。致死率が高くない分、感染しても気が付かないで増えていきます』


「でも致死率が高くないと人口も減らないし国境封鎖などはしない気がするけど」


『情報操作です。これは感染リスクの高い危険なモノで初めて発見されました。現段階では薬がないと発信すれば致死率の高いリスクのあるモノでなくて大丈夫なんです。国境や人の行き来を抑え工場等の稼働も減ります』


「なんかわざと流行らせたみたいに聞こえるよね」


『これはシュミレーションですから』


「で、後は私が言った通りだよね」


『いえ、確かに二酸化炭素の排出量は減りますが、工場等を稼働させ、経済がまわらないと人は稼げず食べていけません』


「まぁそうだよね」


『だから考えるんです。ボーっとしてる場合ではないんです』


「ボムなんかのテレビ観た?」


『私は映像として見えるものは全てみてきました。しかし、見えないモノがあなた方にはあります。辞書では見ましたが優しさや勇気 元気 怒り 憎しみ 愛

等 主に感情といわれるモノです。どうすればこの様な感情があなた方に発生するのかの予測は出来ます。表情から読み取る事もできます。見るモノではなく感じる事なのでしょう…それらを私は過去の行動から予測は出来ます』


「過去の行動からの予測か…。詳しくは知らないけど昔にはペストとか流行り凄い人口が減ったけど、今はこうしてなんとか暮らしているよな、でも代わりに環境が破壊され格差も生まれている」


『そうですね。美しい地球どころかあなた方人間はこのままでは生きていけない環境になる。それもあなた方は予測出来ているのに経済が優先されて環境は悪化している』


「だから新たな感染症が見つかったと情報を流し、人の行き来が減少し経済は停滞はするが環境は改善する。でもこの感染症が治まれば、また同じ事が繰り返されてしまう。ん~…。なんとか環境を良くしながら経済も環境も良くなる方法はないのかな」


『それもあなた方は作っていますが経済等が優先し、大きな団体からの寄付と圧力と権力がからみ、変換が進んでないのです』


「なんとなくわかる気がする…」


『シュミレーションを続けます。時が経ち感染者から抗体がつくられ対処療法的な薬も出来、あなた方は落ち着きを取り戻しはじめます。元々致死率は高くはないため、この感染症がきっかけで持病が悪化し亡くなる方は出てきますが、その他の原因で亡くなる全体の死亡数から考える事もあなた方は出来る様になってくるでしょう。しかし経済活動が止まっている間に格差は更に広がります。どういう事が起こると推測されますか?』


「仕事が出来ないから食べていく事が出来ないで…餓死!あんまり考えたくないな…。そこまでいかなくても自殺者や犯罪も増えそう。補償とかもあるかもしれないけど、それでなくても借金だらけとか云われてるからあてには出来ない気がする」


『そうですね。確かに犯罪も自殺も増加し、餓死する人さえ出てくるでしょう。

では、どうしたらいいと思いますか?』


「ん…とりあえず仕事をする!で、なるべく環境を考えた消費やエネルギーにかえていく‼格差ごとに補償と税金のかけ方を変えていく…とかかな」

 

『出来ると思いますか?』


「えっそれ言うの…。かなりひっぱくして本当にやらないと駄目なんだとわからないとやらない気がする」


『そうですね。では感染症はなぜ発生しこんなに広まったと思いますか?』


「この感染症って細菌なのかな?それとも風邪?とかのウイルスみたいな感じなのかな…。まぁいづれにしても身の回りのどこにでもいるよね?漫画で見た事あるし、食品衛生かなんかの先生は生もの絶対食べない❗って云ってたから

見えないだけでウヨウヨしてるって」


『確かにあなた方の周りには様々な細菌やウイルスが沢山浮遊し付着しています』


「新型が見つかったのは…人が調査か

なんかして見つけて名前を付けたから…かな」

 

『新型といってもあなた方が知らないだけで存在はしていたものです。あなた方人間は自分達の方からしか物事を見ない事が多くなってきてしまいました。あなた方が国境線をひいた所で空気は流れてます』


「細菌もウイルスにも国境線は関係ないって事だよね」


『細菌もウイルスも元々存在していたのなら、人間に感染症を引き起こしたのは何故だと思いますか?』


「人の方が変異した?ということ…」


『あなた方は人体に影響はないと、遺伝子組み換えをした野菜を食べます。そして家畜にも遺伝子組み換えをしたものを食べさせ、成長促進剤を打ち、狭い小屋や劣悪な環境の中、生き物ではなくモノの様に扱い殺し、食べます。食べるものを遺伝子操作して人はわずかでも変異しないと思いますか?』


「都合のいい解釈だよね」


『あなた方は生き物で感情というものがあります。家畜も生き物です。感情があります。どんな想いで過ごし殺されたかのおもいも一緒に食べているんです』


「変なウイルスぐらいかかってもおかしくない位ひどい事をしてる…」


『あなた方も生き物で地球の一部分なんです。自然界の一部でそれがバランスをとろうとして感染症が起こってるんです』


「自分達は駆除とか言って人間の都合で減らしてる。もう人が生きていく事は出来ないのかな…」


『バランスをとっているのですぐに全滅する事はなくても厳しいでしょう』


「恐竜と一緒…歴史は繰り返される…」


『あなた方人間を残そうと私、AIに質問したらどうなると思いますか?』


「あっその手があった!」


『あなた方が自身が出来ないのでしたら私はあなた方を管理する事になるでしょう。テレビやインターネットにわからないように情報を刷り込ませ、自分の意思の様に思わせる。苦痛ではないでしょう。戦争も起こらない。自然環境を考えた行動をしないとあなた方は地球から消えてしまうんですから…』


「私に出来る事は…」


『あなたに出来る事は手元にあるbombというボタンをpushすれば、私はあなた方人間を情報を使い管理しはじめます。押さなければいずれあなた方人間は滅びます。

自分で選択出来るのが正義だとすれば

どちらを選んだ結果でも、それがあなたの正義になるんですよね。本に書いてありました。あなたはどちらを選びますか?』


と、そこでジリジリと目覚まし時計がなり、目が覚め、私はpushした。


2020年夏、どうやらオリンピックは1年先伸ばしになるらしいとニュースが流れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る