V、吸血の衝動シリーズ

嵩祢茅英(かさねちえ)

V、吸血の衝動【3:2:0】40分程度

男3人、女2人

40分程度


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●舞台

現代イギリス。古い建物が多い街並み。人口が多く賑わいのある都市部。


●登場人物


レオン

父親。とても優しくて穏やかな性格。家族をとても愛している。研究施設勤務。


ミア

母親。優しく厳しい一面を持つ。妊娠しており今は安定期に入っている。病院勤務。


ルーク

双子の兄。17歳。明るく活発な性格で人気者。


リアム

双子の弟。17歳。聡明で何でも卒なくこなす。


リリー

長女で末っ子。14歳。幼さが残る、吸血鬼よりもまだ人間と意識が近い。


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「V、吸血の衝動」

作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)

レオン♂:

ミア♀:

ルーク♂:

リアム♂:

リリー、飼い人♀:

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レオン「やぁ、諸君。ご機嫌いかがかな?

本日はみなもご存知であろう【吸血鬼】の話をしよう。

史実上ではヴラド・ツェペシュやエリザベート・バートリーなど、耳にしたことがある方も多いのではないだろうか?

【吸血鬼】と聞いて、君たちは様々なイメージを思い浮かべるだろう。

これから我々の話を少々お聞かせしようと思う。ぜひ楽しんで聴いていってくれたまえ」


(間)


【自宅、朝食風景】


リリー「ふぁ…おはよう。…またこのニュース?最近こればっかりだね…」


リアム「ああ、多いね。栄養が足りずに我を忘れて吸血する奴。世間ではヴァンパイア・シンドロームなんて呼ばれちゃってさ。笑える」


ルーク「はぁ?全然笑えないよ。あんなことされちゃこっちが動きにくくなるだけだって」


レオン「今の時代、大っぴらに人間の血を吸おうものなら、気が狂った危険人物として取り押さえられて、国家によって秘密裏に処理されるのがオチだろう。

【吸血鬼】の存在は、我々と国家の一部の人間にしか認識されていないからね。」


リリー「捕まった人はみんな、1人で暮らしていたのかな。栄養失調になるまで血を摂取できなかったなんて、不自然じゃない?」


ルーク「吸血鬼の大半が日光を克服したとはいえ、昼にしろ夜にしろ人をさらうのにはリスクがありすぎる。誰かがいつ栄養失調なって、人を襲ってもおかしくはないだろ」


レオン「身体能力、寿命の長さに加え、夜目よめや鼻が利くという点で、我々吸血鬼は人間の上位互換であると言ってもいいだろう。

だが吸血鬼が生きる上で必要不可欠な血の摂取が足りないと、栄養失調になり、やがてちりとなってしまう。

これは我々にとって、唯一の欠陥と言える。」


リリー「だから人間を家畜のように【飼う】んでしょ?捕まった人は【飼い人かいびと】、居なかったのかな」


ミア「ちょっと、お喋りしてないで!もうこんな時間よ!そろそろ出なくちゃ間に合わないわ!

あなたたちも早く用意を済ませて!

今日の食器当番は誰?きちんと洗ってから行ってね?時間が経つと汚れを落とすの大変なんだから…」


リアム「ん!今週の当番は僕!みんな自分の食器、シンクに持ってってー!」


リリー「ねぇ、私のピンクのスニーカーどこー?」


ミア「玄関に置いてない?」


リリー「なーい」


ミア「シューズボックスは見た?」


レオン「どれ、ぼくが見よう。(棚の高い位置から)っと。はい、これかな?」


リリー「うん、ありがとう父さま」


ルーク「リアムー!リュック、玄関に置いとくぞー!」


リアム「ありがとルーク!助かる!」


ミア「さ、みんな揃った?じゃあ手を出して。はい、今日の分」


リリー「ありがとう、母さま、いただきます」


ルーク・リアム「(揃えなくてOK)いただきまーす」


ミアM「そう言って手渡したのは、血液成分の入った特製のキャンディ。


彼らのような未成年ならキャンディと少量の血液で日常生活を送ることができる。

祖母から受け継いだレシピを元に毎週末に作り置きをして、家族に配る。栄養失調にならないための配慮だ。」


リリー「父さま、母さま、行ってきます」


ルーク・リアム「(揃えなくてOK)行ってきまーす」


ミア「いってらっしゃい、十分気をつけてね」


(間)


【兄妹、登校風景】


リリー「ふぁー、元々吸血鬼は夜型でしょ…学校はつらいよ…眠い…」


ルーク「人と紛れるために仕方ないさ、慣れるしかない。夜は目が冴えちゃうから寝るのが大変だけどな…」


リリー「兄さまたちは眠くないの?」


ルーク「もう慣れたよ、毎日寝不足…」


リアム「リリーもそのうち慣れるさ。」


リリー「そんなの慣れたくない…

日光を克服してもやっぱり昼間は眠いよ…寿命だって昔は500歳も生きれば大往生だったのに、今は医学の進歩で平均寿命も伸びて、700歳を超える人もいるんでしょ?

だったらそろそろ睡眠のサイクルも変わって欲しい…」


リアム「夜眠くなる吸血鬼って笑える。

そういえば【ヴァンパイア・シンドローム】で捕まった人はどこかの地下施設で拘留されて餓死するのを待つって噂、本当なのかな」


ルーク「さぁね。ただ1つ言える事は一度捕まって戻った吸血鬼は居ないってこと」


リアム「じゃあさ、このキャンディ、人に食べさせたいと思った事はある?」


ルーク「興味はある!」


リリー「母さまから手渡されて家を出るから、人に渡す事なんてできないよ」


ルーク「そう!だから試せないんだよな〜!

体内で血の成分が混ざって、特別美味い血液を持った個体になるらしいじゃん!

…まぁ、あげられたとして?知ってるやつにしか渡せないだろ〜?知り合いを吸血の対象にする気はねぇし…だからと言って知らない人に手づくりの飴を渡すなんてどう考えても怪しいだろ!?」


リリー「血の味はしないけど、このキャンディ美味しいよね。これなら人にあげられそうだけど…作るレシピが家によって違うから縄張りとしての役割もあるって母さまが言ってた…

(間)

あ、"友達"が呼んでる…それじゃあ、また後でね、にいさま」


ルーク「おー!またな!

(間)

…"友達"、ね…今は飴と家で飲む血液で済んでるけど、成人して直接血を吸うようになったら、人間を"餌"としか思えなくなるのかな」


リアム「さぁね。血液摂取用の【飼い人かいびと】と、私生活でつるむ人間とでは持つ印象は違うのかもしれないし。その時にならないと分からないよ」


ルーク「うちの【飼い人かいびと】もただの餌…父さんや母さんはそう思っているのかな…なんか、そう思わないと【飼い人かいびと】に同情しそうでさ」


リアム「それは僕達がまだ未成年で、直接血を摂取する必要がないし、周りの人間に合わせて生活しているからそう思うんだろうね。どちらにせよ、この話題はもうやめよう。人が多くなってきた」


ルーク「…そうだな…はー、ダルイ1日がまた始まるのかー」


リアム「それは仕方がないさ。母さんの故郷のような田舎では身バレのリスクを回避するために吸血鬼は学校に通わないなんてこともあるらしいけど…」


ルーク「通信制で大学受験受かる自信がない…」


リアム「実際大変だと思うよ。学校なら強制的に勉強させられるけど、自由に勉強となるとやる気も出ないしね」


ルーク「だから母さんは大学に入るのに時間がかかったんだろ?歳の差婚なんて吸血鬼には珍しくもないけど」


リアム「ルークは年上が好みなのかー♪」


ルーク「べっ、別にそういう話してねーよ!ほら、もう学校着くぞ!」


リアム「ルークが照れてる〜♪」


ルーク「照れてない!!!」


(間)


【夫婦、通勤風景】


ミア「はー、毎朝忙しいわね」


レオン「それでも、あぁして子供達と話をするのは楽しいさ。情報の共有も大事な事だ」


ミア「それは分かってるんだけど…ふぅ、私もコミュニケーションを取らなくちゃね」


レオン「無理をしない程度にね。おっと、段差に気をつけて」


ミア「ありがとう。ここの階段は古くて急だから、助かるわ」


レオン「いつでも手を貸すよ」


ミアM「吸血鬼は匂いでお互いを認識する。

私達の出会いは職場。

私は看護師。夫はその敷地内に併設された研究施設で働いている。」


(間)


【過去、病院敷地内のベンチ】


ミア「レオンは人気者ね。いつも周りにたくさんの人がいる」


レオン「そうでもないさ、仕事柄だよ」


ミア「いいえ、あなたの人柄に惹かれているのよ。あなたはとても優しくて気が利くから」


レオン「そう言って貰えると照れるな…キミもそう思ってくれているのかい?」


ミア「もちろんよ、細やかな気遣いができるのは才能だと思うわ」


レオン「才能かぁ…ははは…

そういえばミアはこの辺りの出身じゃないだろう?」


ミア「ええ。大学進学を機に、こっちに単身引っ越してきたの。私の故郷はとても田舎で…都会に憧れていたの。ふふっ、よくある理由よね」


レオン「それじゃあ学校は?」


ミア「通信制で大学受験の資格を得たわ」


レオン「それはすごいね、とても勤勉だったんだ」


ミア「そんな事はないわ、実際同期とされてるアナタと20は離れているしね」


レオン「いやぁ、ボクなら投げ出していたと思うよ。キミは立派だ」


ミア「ありがとう。

ところでレオンは、研究施設で何のお仕事をしているの?」


レオン「あぁ、より効果の高いサプリメントの研究をしているんだ。現在あるサプリも優秀だけど、併用することでさらに吸収率を高めるサプリがあれば、ってね」


ミア「ふぅん…吸収率を高める…それで、実用化は可能なのかしら?」


レオン「そうだね、研究自体は上手く進んでいて、今は最終段階だよ」


ミア「そうなの!それは楽しみね」


レオン「あぁ…」


ミア「…どうかした?私、何かまずいことを言ってしまったかしら」


レオン「いいいいや!!!とんでもない!!

…あの…ミア、キミとこんな風に話す機会が増えて、ボクはとても嬉しく思っているんだ…」


ミア「あら、私も話していて楽しいわ。そう思ってくれているのなら光栄よ」


レオン「ブロンドの髪に色白の肌。

強い意志を持った瞳。

吸血鬼は若々しく美しいと言われるが、今まで見たどの女性よりもキレイだと思っているんだ」


ミア「あら、やけに褒めてくれるのね?」


レオン「それであの…もしキミがよければ…」


ミア「よければ…?」


レオン「ボ…、ボクと、結婚してください!!」


ミア「…え?」


レオン「…っあ、いや、一目惚れ、で、それでっ、あのっ」


ミア「レオン?…結婚を前提に、付き合う。ってことでいいのかしら?」


レオン「へっ…ボク、なんて言ったかな…」


ミア「結婚してくださいって言われたわ」


レオン「〜〜〜っすまない、ミア!」


ミア「ふふっ、謝らないで。これから、もっと深くお互いを知っていきましょう?」


レオン「…それじゃあ…」


ミア「これからよろしく、レオン」


レオン「…っ!ずっと、キミを大切にするよ!」


ミア「ふふっ、あはははははは!」


レオン「ちょ、そんなに笑わなくてもいいじゃないか」


ミア「だってアナタったらとても緊張していたから、つい…ふふっごめんなさい」


レオン「いや、これは笑われても仕方ないな…ははは…」


(間)


ミアM「今でも変わらずとても優しい夫だ。そして今、私のお腹には新しい命が宿っている。吸血鬼の妊娠時には多くの栄養が必要だ。人間もそうであるように。沢山の血を飲み、吸血し、サプリメントを飲む日々。大きくなったお腹に手を当て微笑み合う。

安定期に入り、子供たちは新しい兄妹の誕生をとても楽しみにしている。幸せの真っ只中といった具合だ。」


ミア「今日は院長の診察を受けて、仕事もそんなに掛からないようだから先に帰ると思う、帰りにまた連絡するわ」


レオン「そうか、帰り道には気をつけるんだよ」


ミア「ふふ、わかっているわ、ありがとう」


ミアM「軽くキスを交わし、お互いの職場へと向かう。


職場は古くからある病院で、院長一家が私達と同じ吸血鬼なのだ。


私が子供達を出産したのもこの病院。

2度とも院長にお世話になっている。


初産の時、出産直後に子供からへその緒を切除すると、それを夫に渡し、私は子供のへその切り口を舐めた。ルークとリアムの血を味わった時、母親になったという実感が湧いた。

今でもあの時の感覚は忘れられない。


吸血鬼の子供は離乳食を食べるようになると、よくいろんな物を噛みたがる。人間の子供も色々口にしたがるが、それとはルーツが異なる。

その噛み癖を矯正することから躾は始まる。動物的なようだが、犬でも猫でも噛んでしまうからだ。

人間が保有するウイルスより、その他の生物せいぶつの保つウイルスの方がタチが悪い。乳幼児は吸血できないが、やはり人間から見たら異質に映る。」


(間)


【研究施設内】


レオンM「研究施設には毎日入院患者の採血分の血液が運ばれ検査をする。検査のかたわら、血を舐める。」


レオン「やはり不健康な人間の血は不味いな…」


レオンM「検査で余った分の血液を軽く飲み干す。穢れた血液には【当たる】ことがある。それでもやめられないのは悪い癖だ、と自覚があるから、尚タチが悪い。」


(間)


【午後、双子の帰り道】


リアム「(伸びをしてから)今日の講義は比較的楽だったなぁ、まだこんな時間だし。街は今日も人が多いね。早く家に帰りたい…」


ルーク「…最近さ」


リアム「ん?」


ルーク「最近…すれ違う人間の首筋を見ることが多くて…」


リアム「あー…そろそろ成人だからね」


ルーク「リアムはそういう…吸血したいとか…思うか?」


リアム「うーん、まだそういうのはないかなぁ」


ルーク「そっか…」


リアム「不安?」


ルーク「不安…なのかな…正直、よく分からないんだ。でも確実に今までの自分では無くなって来ている気がして…」


リアム「大丈夫、みんな通る道だ。心配なら父さんにでも相談すればいい。話し相手なら僕もいるしね」


ルーク「…うん………ありがとな」


リアム「…うわ、ルークがありがとう、なんて、珍しい!」


ルーク「はぁ?!ありがとうくらい普通に言うっつーの!!」


ルークM「軽く笑みがこぼれる。それとは裏腹に自分に起きている変化に身震いする。当たり前の変化だと頭では分かっているものの、戸惑いは拭いきれない。双子のリアムには、まだその気配は無いようで、余計に不安が募る。」


リアム「寄る場所がないなら早く帰ろう。やっぱり日中は眠くて我慢するのが大変だよ」


ルーク「お前はいつも堂々と寝てるけどな?」


リアム「バレなきゃいいんだよ。バレなきゃ。」


ルーク「そのくせテストの点数はいつもいいからムカつく!」


リアム「睡眠学習ってやつかな♪」


(間)


【双子、帰宅】


リアム「ただいまー」


ルーク「いい匂い!なになに!」


ミア「こーら!ただいまが先でしょ!」


ルーク「へへっ、ただいま!」


リリー「お帰りなさい、にいさま。クッキーを焼いていたんだ」


リアム「お腹空いたー、クッキー食べたーい!」


ミア「なら手を洗って。晩ご飯もあるから食べすぎないでね!」


ルーク・リアム「(揃えなくてOK)はーい」


ミアM「キッチンカウンターに焼きたてのクッキーを置く。あちち、と格闘しながら、まだ柔らかいクッキーを口に運ぶと、香ばしい香りと優しい甘さが口いっぱいに広がる。

晩ご飯を作るまでの小休憩。

子供達がワイワイとクッキーを食べる様子を見て幸せを感じる。」


ルーク「リアム!お前、俺の分まで食べたな!?」


リアム「さぁ、そんな事ないと思うけど。一々いちいちルークが何枚食べたかなんて見てないよ」


リリー「にいさまたち、うるさい。母さまに怒られるよ」


ルーク「いっつもリアムは美味しいところを持っていく!」


リアム「もし仮にそうだとしたら、ルークの要領が悪いだけなんじゃない?」


ルーク「はぁ!?」


ミア「はい!そこまで!!仲良く食べられないのなら、オヤツはなしよ!」


リリー「ルークにいさま、不満そう」


ルーク「別にそんな事はない!」


ミア「ルークは要領悪くないわよ?リアムの要領が良すぎるの」


ルーク「それは分かる、テストもいつも学年トップ10位以内にいるし。そこは勝てる気がしない…

あ、ねぇ、今日は父さん早く帰ってくる?」


ミア「うーん…そうね、なにも連絡は来てないし、いつも通りに帰ってくるんじゃないかしら。どうして?」


ルーク「あ、いや…」


リアム「(割って入る様に)ちょっと話をしたいだけー」


ミア「あら、そう」


(間)


【父の書斎】


ルークM「夕食後、リアムと一緒に帰り道で話した内容を父に話す。」


レオン「そうか…お前たちももうすぐ成人を迎える時期だからね。リアムはまだ【吸血衝動】はないものの、そろそろ吸血を始めてもいいんじゃないかな…」


ルーク「吸血…」


レオン「我が家に、【飼い人かいびと】がいるのは知っているね?」


ルーク「うん」


リアム「地下にいるんでしょ?」


ルーク「…【飼い人かいびと】を、父さんと母さんはどういう風に思っているの?…ただの、餌?」


リアム「ルーク!」


レオン「リアム、いいんだ。お前たちも近い将来、吸血が必要になる。今までの暮らしの中で接して来た人間に抱いている感情との折り合いが付かない事もあるだろう。

地下の【飼い人かいびと】。…彼らは幼い頃に攫われ、今までずっと地下で飼われ、ただ吸血されるためだけに生きている」


ルークM「そう言い終えると、父は引き出しからじゃらりと鍵を取り出す。」


レオン「では、行こうか。【地下】へ…」


ルークM「父の声が、一層低く部屋に響いた。」


(間)


【自宅、地下】


ルークM「僕達は父と共に地下へ降り、【飼い人かいびと】と対峙する。」


リアム「思っていたよりもキレイな部屋なんだね…」


レオン「環境は良質な血液を維持するのにとても重要だ。飼い人には満足な食事が与えられ、健康を保っている。でないと栄養素も味も落ちるからね」


ルーク「…普通の人間と変わらない…」


レオン「それはそうさ、通常に暮らしている人間も、吸血鬼に飼われている人間も、同じ人間なんだ。」


リアム「唸り声を上げているけど…言葉は喋れないの?」


レオン「彼らは年端としはもいかない頃にさらっているから、言葉を忘れてしまっているんだ。

首筋に噛み跡があるのは分かるかい?」


ルーク「うん」


レオン「基本的に同じ場所から吸血する。最初は難しいかもしれないけど、実際にやってみた方が早い。」


リリー→飼い人「うーー…」


レオン「ルーク、吸血してごらん」


ルーク「うん…(噛み付く)」


リリー→飼い人「うう…」


ルーク「(血を飲んで)この飼い人、キャンディを与えられてる?今まで飲んでた血液とは全然違う…甘くて、とろける感じ…体温のせいかな、暖かい血はこんなにも違うんだ…なんだか頭がフワフワする」


レオン「癖になるだろう?飼い人の健康状態によって味も大分だいぶ変わる。いつもは母さんが病院からもらってくる血液パックのものを飲んでいるから、それとは全く違うと感じるのは当然だ」


リアム「ボク達は人間よりも寿命が長い。飼い人は、ずっとは生きていられないよね?」


レオン「あぁ、人間の寿命は短い。我々吸血鬼は一定の年齢で外見を維持する。ゆえに不自然に思われないよう、転々と棲み家を変える必要がある。

今回、出産のタイミングで別の地域へ引っ越しをするのはそのためだ。その時、新しい【飼い人かいびと】を調達する。…お前たちにも手伝ってもらうつもりだ。」


ルーク「…俺達が?」


レオン「大丈夫、そんな難しいことはさせないし、これも経験だ」


リアム「分かった」


レオン「吸血、【飼い人かいびと】の調達、棲み家を変えるタイミング…お前達はこれからたくさんの事を学ばなくてはならない。分かるね?

なに、我々は個体数こそ少ないが同じ吸血鬼の親族や知人がいる。一定の周期でお互いの家を替わるのが1番手っ取り早い。お前達が家庭を持つ頃には自分たちで全てこなせるようになっているさ」


【病院、母の出産】


リリーM「数ヶ月後、母が出産の時を迎えた。新しい兄妹の誕生に立ち会った私は、その小さな命の尊さに言葉を失った。

とても小さくて、ヘタに触ろうものなら壊れてしまいそうな華奢な体から、力強い産声が上がる。」


ルーク「産まれた!新しい俺たちの兄妹だ!」


リリー「小さい…ねぇ、私達もだった?」


レオン「そうだね。お前達も産まれた時はとても小さくて、でも生きる事に希望を持った力強さで…

出産には何度立ち会っても【この子のために頑張ろう】って思わせてくれる。そんな愛おしい存在だよ」


リリー「母さまと赤ちゃんには、いつ面会できる?」


レオン「少しの我慢だ。今は休ませてあげよう」


リリーM「そう言うと、父さまはガラスの向こうの母さまと目を合わせて微笑み合う。

新しい命。新しい兄妹。早く側で見たかった。早くその肌に触れたかった。


数日後、皆で病室を訪ねると、ベッドに横たわる母さまと、その横のベビーベッドですやすやと寝息を立てる赤ちゃんがいた。」


【病室】


レオン「ミア!」


ミア「あら、みんないらっしゃい!」


リアム「わぁ〜、小さい…」


ルーク「触っても大丈夫?」


ミア「今は寝ているから、優しく触ってあげてね」


リリー「ふにふにしてる…あったかい…」


レオン「それで、退院はいつ頃になりそうなんだい?」


ミア「母子ともに健康。そうかからないわ、何もなければ今週末には帰宅よ」


レオン「そうか。よく頑張ったね、お疲れ様」


ミア「皆のサポートのおかげよ。これからもお願いね」


レオン「もちろんだよ、さぁ、長居しては体に障る。そろそろおいとましようか」


リリー「もう帰るの?」


レオン「週末には家族が揃う。楽しみに待とうじゃないか。荷物は持ったかい?」


リアム「持ったよ。じゃあね、母さん」


ルーク「ゆっくり休んで、赤ちゃんも」


レオン「じゃあ、また来るよ、ミア」


ミア「みんなありがとう。気を付けて帰ってね」


(間)


【数日後、病院からの帰り道】


レオン「(空気を吸う)退院にはいい天気だ!

でも、本当に車じゃなくて良かったのかい?」


ミア「ええ、充分休んだし、外の空気が吸いたかったのよ。わがままに付き合わせてごめんなさい」


レオン「いや何、これくらいお安い御用さ。久しぶりにキミと歩くこの道も、この子と3人だと、とても新鮮に感じるね。

さてと…新しい我が家へ帰ろうじゃないか。子供達も楽しみに待っているよ」


リリーN「生まれたての子供はみな日光に弱い。

生後半年から1年程は日光に当れないため、貧弱な印象を持たれる事が多い。

共に歩いていると、シェード付きの乳母車にわらわらと子供たちが寄ってくる。

『赤ちゃんだ!』、『男の子?女の子?』、『名前は?』などと次々に言葉が投げかけられる。」


レオン「やぁ、君たちはここの近くに住んでいるのかな?とても元気だね!」


リリーN「『そうだよ!』、『ねぇ、なんでシェードがかかってるの?今日は曇りだよ?』と聞いてくる。」


レオン「この子は日光アレルギーでね…そうだな、分かりやすく言うと太陽の光で肌がかぶれてしまうんだ。曇りでも太陽の光は出ているからね。この子がもう少し大きくなったら、一緒に遊んでくれると嬉しいな。上の子に、キミらと同じくらいの歳の子もいるんだ。さぁ、出逢いの記念に【特別なキャンディ】をあげよう!」


リリーN「そう言って例の【キャンディ】を手渡す。病院から家までのテリトリーを縄張りにするために。

たくさんの【良質な血液】の種を撒くのだ。」


レオン「(含みを持った言い方で)そうだ、今度キミ達を、うちへ招待しよう…!」


(間)


レオン「さて、いかがだったかな?我々吸血鬼は現代にも存在する。君達が知らないだけでね。それでも昔と比べれば君達人間との関係性も随分と変化したと言える。文明に合わせて我々も在り方を変え、存続している。そう、我々吸血鬼は人間に紛れ生活している。この話を聞いて君達はどんな感想を抱いただろう?吸血鬼に会ってみたい?それとも恐ろしい?存外、君達の身近に我々の仲間がいるかもしれない…だが【探そう】なんて思わない事だ。…何故かって?(少し笑って)…その答えはもう解っているはずだ…

では諸君。今宵の話はこれで終わり。機会があれば、また話を聞かせよう。それでは………よい夜を過ごしたまえ…ハッハッハッハッハッハ!!」

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