昔語り【1:1:0】10分程度
嵩祢茅英
昔語り【1:1:0】10分程度
男1人、女1人
10分程度
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「昔語り」
作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)
男♂:
女♀:
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男
なぁ、覚えてるか?初デート。俺、お前にカッコつけたくて、でも失敗ばかりして…
女
ええ、もちろん覚えてるわ。ソフトクリームを地面に落としちゃって。
男
お前をベンチに待たせて2人分のソフトクリームを買って、なんて、ベタな事をやったけど、つまづいて落っことしちゃってさ、とても恥ずかしかったよ。
女
ふふっ、あなたらしいわ。
男
あんな昔の事、よく覚えてるなぁ…恥をかいたせいかな…
女
いいじゃない。あなたの優しさを今知ってるから。
ふふっ、でもあれは
男
それからたくさんデートも行ったよな。お前が好きな水族館。
帰りに海辺で話をしたっけ。
女
取りたての免許で、近隣の水族館は全部連れて行ってくれたわよね。
ゆらゆら泳ぐ魚たちにとても癒されたわ。
あなたは泳いでいる魚を見ては『美味しそうだ』なんて言って…
男
海の近くにはたくさん海鮮の美味しい店があって、色々調べて行ったなぁ。
あの頃は車を運転するのがかっこいいと思っていて、お前を色んなところへ連れ回したっけ。
女
あなたとなら、どこにいても幸せよ。
男
仕事が忙しくなって、なかなか遠出出来なくなって…もっと行きたいところ、たくさんあったのになぁ…
女
仕方がないわ。あなたはよく働いて、それはとても立派な事よ。
男
同棲して、家具やなんやを揃えるのもお前に任せっぱなしで…
女
いいのよ。そういうの、選ぶのが好きなの。負担とは思わなかったわ。
男
お前の作る料理が美味しくて、ついつい食べすぎてなぁ。
女
太ったって言って慌てて体重計を買ったわよね。
男
お前の作る炊き込みご飯が絶品でなぁ…また食べたいなぁ…
女
料理を教えようとしてもあなたは全然聞いてくれないから、なにも出来ないままなのが心配だわ。
男
結婚して、家を建てられるようになるまでがむしゃらに働いて。
その間、構ってやれなかった事を今になって後悔してるよ。
女
そんな事気にしないの。家を建てるなんて並々ならない努力の
男
それでプロポーズして…
夜景の綺麗なレストランを予約してさ。
女
ええ、覚えているわ。私、とても嬉しかったのよ。
男
男ってのは
女
ふふっ、あなたは特にそのタイプよね。
でもあの時、言ってくれた言葉は忘れず、今でも胸に残っているの。
男
デザートの飾りの上にリングを乗せて貰って『必ずお前を幸せにする。俺と結婚してくれ』なんて、ドラマの見過ぎだよなぁ…
女
そんな事ないわ。あの時のあなた、かっこよかったわよ。
男
すごく緊張してたんだ、初デートの時みたいにやらかさないかって…
女
あんな素敵なレストランにいきなり連れて行かれたんだもの、薄々気付いていたわ。
食事をしてる時もあなたは落ち着かなくて、ずっとぎこちなかった。
男
あれでも一応、成功したのかなって…
俺にしては上出来だって、思ったんだ。
女
うん。ありがとう…
男
しばらくして子供が生まれて、お前は育児で大変なのに俺は仕事ばかりでなぁ。
女
あなたのおかげで生活が成り立っていたのよ、感謝しているわ。
それにあなたのご両親もご近所だったからとても心強かったの。
男
俺ももっと手伝えれば良かったのに…
女
家の事は私に任せてくれていいのよ。
男
長男も次男もわんぱくでなぁ…散々振り回されただろう。
女
元気でいてくれることが何よりだわ。
男
親父もお袋も、
女
色んな物を頂いてしまったわ、感謝しきれないくらい。
男
忙しい毎日だっただろう。
女
ええ。忙しくて、とても充実した日々だったわ。
男
2人も無事に嫁を貰って…長男の結婚式でも、次男の結婚式でも、お前はたくさん涙を流してたっけ…
女
そりゃあ嬉しいもの。2人ともいいお嫁さんをもらって…私もいい
男
子供たちが立派に育ってくれたのは、
女
いいえ、あなたも、あなたのご両親もたくさん支えてくれたわ。
男
俺が一番いい嫁さんをもらったなぁ…
女
あら、泣かせる気?
男
もっとお前との時間を大切に過ごせばよかった。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ…
女
私は充分幸せだったわ。それは、あなたのおかげ。
それを忘れないでちょうだい。
男
さて…そろそろ出棺の時間だ。
本当に今まで、ありがとう。
言葉では伝えられなかったけれど、ずっと愛していたよ。
女
こちらこそありがとう。
ちゃんとご飯を食べて長生きしてね。
私は一足先に行くけれど、気落ちしないで人生を楽しんでちょうだい。
孫の顔が見れなかったのが心残りだけれど、私はとても幸せだったわ。
私もあなたを、愛しています。
昔語り【1:1:0】10分程度 嵩祢茅英 @chielilly
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