第9話 空襲警報
「それにしても、あんたかなり運がいいよね」
「何?」
産業展示館の中を調査している時だった。既に残り時間は二日しか残っていなかった。予定は効率良く進み、あと残るはこの産業展示館と、この地の地上駅ターミナルだけだった。
小さなものからこまごま効率良く進めていたから、最後に二つの代表作の様なものが残った。
「運がいいって?」
ドーム型の天井がついている階段室を屋上に向かって上りながら、彼女は問いかけた。次第に細くなってくる階段なので、並んで行くことはできず、ヨギは後ろからついてくる状態だった。
「空襲だよ。あんたが居る時を見計らったみたいじゃない」
「ふーん。じゃああたしがずっと居れば、もう空襲は来ないかもね」
「言うよなあ」
やや呆れた様に彼は言う。
「でも、実際そうかもしれないよな」
「何よ。冗談と思ってたんじゃないの?」
「あんたこの街、好きだろ?」
「そうね」
即座に彼女は答える。
「うん。でもそれはあくまで研究者として見た限りかもしれないけど。でも好きよ。この街は、すごくあたしは居てほっとする。ほら」
エラは途中の窓から、外を指さす。
「何かね、ここにある建物は皆、緑とうまくとけあってるのよね」
「どういう意味?」
「ヨギがウェネイクや、他の惑星に行く機会があれば判るかもしれないけど、他の場所はそういう訳じゃないのよ」
それでもまだ首をひねる彼に、エラは補足する。
「例えば、あたしの恋人………… キュアっていうんだけどね。彼の故郷は、海がやたら多いから、人が住む場所が少ないのよね。そうすると、緑は必要最低限を残して、とにかく人の住む場所を作らなくちゃならないのよ」
「へえ…… ここはそういえば、大陸がでかいよな」
「そうすると、どうしても、作られる建物は、とにかく狭い場所にできるだけたくさんの人を――― だから高く高くなってくし。どうしても緑を無理に開いてるから、しっくりこないのも当然だし」
実際に行ったことはない。しかしキュアが見せてくれた写真でも、それを感じ取るのは簡単だった。
「だからまあ、ここに住んでる人たちには、やっぱりそれはそれで言い分があるんだろうけど―――」
彼女は言葉をにごす。所詮自分は外から来た人間で、上辺しか見ていないことは知っている。
「でも、あたしはとにかく、ここのこうゆう部分が好きなのよ」
「エラの言う様なのは、いまいち俺には想像しにくいけど…… でも、エラがここの建物が好きだってのはよく判るよ」
「そう思ってくれる?」
「そうでなくちゃ、あんな毎日毎日、こんな歳のおねーさんが汗だくになって砂ぼこりにまみれてるなんて、俺には判らないもん」
「こら」
ふり向き、こん、とヨギの頭をつついた。
―――その時だった。
酔っぱらったラッパの様な音が、半分開けられた窓から、飛び込んできた。
はっ、とヨギの表情が変わる。エラは問いかける。
「―――今の音、何?」
「空襲だよ」
「え? だってこないだのとは」
「あれとは量が違うんだ!」
量が。
エラは先日の空襲を思い出す。あれと規模が違うというのか。
ヨギは彼女の手を掴むと、階段を走り降りる。すさまじい彼の勢いに、エラは思わず段を滑り落ちそうになる。
それでも何とか、建物の外に出ると、ぶぁ…… んという音が耳に響く。
「空中母艦からの奴だ」
ヨギは険しい表情で空を見上げる。どう違うのだろう、とエラもつられる。と。
「あ!」
彼女は自分の手の中にあるものを見て声をあげた。
「ほら、向こうに待避壕があるから、急いで」
「ちょっと先に行って、あたし、中に資料を」
「エラ!」
叫ぶ声が聞こえたが、彼女は振りきった。それは大切なものなのだ。どうしても。
その直後、産業展示館めがけて、爆弾が落とされた。
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