第23話

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 純白で神々しさを放つ神の領域、そこで浮遊する水の女神ミレアスフィールはいくつもの色と形をした魔方陣を出し新たな異世界人を召喚するために魔力を高め、候補となる者を探していた。

 

 彼でもない、これでもない。奴でもない。コイツでもない。

 

 もっと、もっと力を持つ者を召喚しなくては、そう流行る気持ちはミレアスフィールをイラ出せて、その作業を素早くさせる。

 そこに、もう一人女神が姿を現す。

 

「はーいこんにちは、お姉さんだよ!!」


 陽気にトコトコと歩いてきて声をかけたのは剣の女神ティアラだ。

 女神とは思えない陽気でフランクな声かけ、だがそれにミレアスフィールは気づいていない様子で。

 

「新たに呼ばなくては……。もっと力を持った者。ああ……あんなもののせいで余計な力を使わなければ……」

「訊いてないね。おーい、おーい」


 もはや耳にすら入っていない。

 それほどまでに集中していて、それだけ焦っている。

 まあ、そう焦るのも仕方はないだろうとそれ自体はティアラも理解し共感する。

 仕方がない、そう――仕方がない。

 

 ただ――

 

「ミレア!!」


 無視をされるのはまた別の話だ。

 声を荒げ呼ぶと、ブツブツと喋り作業をしていたミレアスフィールはようやくティアラに気づき、冷たい視線を降ろす。

 冷たい冷たい、氷のような視線だ。

 邪魔をするなと言う、下手に刺激すれば襲い掛かって来そうなそれ程の冷たい視線。

 それを向けられながらもティアラはミレアスフィールを見上げ動じず言葉を交わす。

 

「随分と、焦ってるようね?」

「あ?お前なに――なんでいるの?邪魔よ敗残兵風情が」

「あっ、ひっどーい!!でも、その敗残兵風情の契約者が厄災のダンジョン一個潰したんだから少しは感謝してほしいかな?」

「契約者――ああ、あのワタシが捨てたゴミ。あんな何も力がない者と契約するなんて、アナタも随分とモノ好きね」

「ええそう。お姉さんはその辺の真面目ちゃんより、ろくでなしの方が好きだからね。そんなことミレアなら知ってることでしょ?何を今更。それに、」



 すうっと言われっぱなしのティアラが目を細め、

 

「相変わらずの物好きな趣味はミレアの方でしょう?なにその性格?随分と悪趣味な奴の映してるみたいだけど?随分と性根が腐った人間と契約してるのね。前の性格も大概だったけど、今は表面に出ない分一段と酷い」


 そうティアラが返すと、ミレアスフィールもまた目を細め冷たい視線をさらに強く凍てつかせる。

 それは、怒っているともとれる。

 いや、事実怒っているのだ。

 自身のその在り方自体の一番触れて欲しくないことにティアラは触れたのだから。

 というのも、ミレアスフィールという女神には顔がないからだ。もちろんそれは顔といっても物理的な見た目の話ではない。内面。つまりは性格のことだ。ミレアスフィールは水の女神その存在は水その物。水は鏡面反射して鏡のようにその姿を映し出す。ミレアスフィールという女神とはそういう女神。

 ゆえに、ミレアスフィール自身は性格を持ち合わせておらず、契約者もしくはその場に置いてミレアスフィールを見ている者の内面の性格となる。

 これはミレアスフィール自体の根本的な特性で存在の意味とも言える。見る者に己の内心を見せ正しい方へ導く。本来のミレアスフィールの女神としての存在はそれだ。

 だが、そういう特性だからこそなのだろうか、見る者をこう彼女に言った『お前の力は卑しく気色悪い』

 そんな迫害を受け心を凍らした女神がミレアスフィールだ。怒らないハズがなかった。

 それを知っているからこそ、ティアラはワザとそこに触れた。

 

 じゃあ実際問題なぜそんな挑発じみたことをわざわざティアラかだが……。

 

「次から次へと人を呼んでいるみたいだけど、流石に見境ないじゃないかな?必死に世界を保とうとしてるのは分かるけど、使えない人間はその辺にポイポイ捨てるのはどうなの?」

「なに?アナタそんな下らない事を言いに来たの?世界を救うにはこうするしかない。あーじゃま、邪魔……」

「世界を救うためね。そう、本当は勇者でも探してるんじゃないかと思ったけど?」

「………」


 その問いに、ミレアスフィールは睨んだまま答えない。

 

「そうだとしたらもうしない方が良い。勇者なんてもうこの世界に現れないいんだから。未来永劫その可能性は消え去っている。もちろんワタシが契約したあの子も勇者にはなれない。あーごめんごめん。世界を救うためだもんね」

「……ええ。じゃあ訊くけど。アナタはどうしてそこに居るの」

「お姉さん?」

「たとえ敗残兵の出来損ないでも、仮にも今は女神なのでしょう?」

「そうだね、もちろんお姉さんもだよ」

「世界を救うため?」

「まっさかー、人類を救うためだよ、その為なら手段は択ばない。そう"言われている"」

「その結論がそれ?ははっ笑わせないでよ。あの無能に力の9割を与えて存在を保つだけでギリギリ、ばかなの?」

「やっぱバレてたか」


 そういうティアラの体が薄く透け始める。

 ここに存在できる時間の限界が近づいてきている。

 本来、女神は自分の領域でしかいられない。

 ここはミレアスフィールと他6つの元素の女神の領域。ルール違反している上にティアラの力自体は既に女神とは呼べないモノに等しい。

 すべてはツルギに自身のほぼすべての力を渡してしまったから。そうそうに立ち去らなければ存在も危うい。

 それでも、直接会いに来て、言葉で伝えたかったことがティアラには会った。

 

「それだけワタシはかけている。ずっとダンジョン潰しに手を焼いてじり貧状態のアナタ達7女神とは違う。たとえ敗残兵でも最後に勝つのはワタシ達よ。じゃ限界だからバイバーイ!!近いうちにまた」


 それだけ言うと、ティアラは薄れ影も残らない。

 

「愚者が…」

 

 残されたミレアスフィールは静かに瞳を閉じた。

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