リア充時々不幸

確門潜竜

第1話リア充からまた不運に

田蛇了(タダ リョウ)は、大学の学食で、向かい側に座る目菜小和(モクナ コワ)の顔を、カレーライスを口に運びながらも、しげしげと見ていた。というより、見惚れていた。長い黒髪が似合う、やや背が高い、細身だが、健康的なすこぶるつきの美人、とあらためて思っていた。その彼女と田蛇は付き合っている。それも、ほぼ2年、世間的にはラブラブカップルしている。その彼女である、目菜が、ここ数日、憂鬱な顔で、彼といても口数が少なく、心そこにあらずという感じの時が多かった。“よく続いたな。”窓に映る、イケメンとは言えない平凡な自分の顔をチラッと見て、“釣り合わないよな。”

 この二、三日、悩みながら考えて、言い出すタイミングを考えていた言葉を口にしようと思った。その時、目菜が、

「どうしたの?さっきから黙って私の顔をじっと見て?」

 不安そうな声で言った。田蛇には、彼女は何を不安に思っているのは分からなかった。ただ、話を切り出すのにいいタイミングになった。

「君といられて楽しかったな、これからも、ずっと一緒にいたいなとあらためて感じていたところだよ。」

 他人行儀な言い方に、彼女は何を彼が言おうとしているのか理解できなかった。ただ、不安だけを感じて、次の言葉を待った。

「でも、君に、他に好きな、僕なんかよりずっといい男ができたなら、僕を振っていいよ。1週間は泣いて、一ヶ月は落ち込んで、半年は寂しくてしかたがないだろうけど、それだけのことだから、心配しなくていいから…。」

 未練がましい女々しい言い方だなと彼は思っていたが、彼女の方は“この馬鹿、どうして、そうなるのよ!何にも分かっていない!”と苛立たしさを通り越して、怒りを感じた。

「私は別れたくなんかないの!私もあんたと一緒にいたいのよ!そんなこと言わないで!」

 テーブルに大きな音をたてて手をついて立ち上がって、大声で叫んだ。直ぐに、周囲の注目が集まってはいることに気が付いて、慌ててイスに座り直しても、真っ赤になって小さくなった。小さくなったのは彼も同様だった。周囲が、彼が別れ話を切り出したと思っているのが、感じられたからである。

「私は、君のことが一番好きで、君だけなんだから。」

 小さな声で、下を向いて言った。彼の方は、少し安心して、彼女の顔を真っ正面から見て、

「じゃあ、何を悩んでいるのか話してくれよ。今までも、お互いそうやってきたし、そうしなければならなかったんだから。一人では解決できないことは、二人なら解決出来るかもしれないし、もっと多ければ解決出来るかもしれない。そうやって、今までも何とかしてきたじゃないか?」

 彼はゆっくりと噛んで含めるように言った。

“彼には、言っていないことばかりだった。”ということを思い出した。

「家に来て。そこで話す。」

 二人は自宅からの通学であり、二人の家は隣町である。親公認の交際なので、田蛇がスマホで自分の家に、彼女の家に寄っていくからと伝えると、夕食をご馳走になるなら連絡しなさいくらいしか言われなかった。彼女の方から手を握ってきた。少し肌寒くなってきたこともあり、目菜は身体を預けるように寄り添ってきた。どちらかと言うと、彼を引っ張っていくような性格であることを知っている田蛇は、彼女の心配ごとが怖いくらいだった。しかし、このまま無視していても解決するものではなく、自分の方にも飛び火することは確実だと思えた。目菜は、あらためて、田蛇がいてくれるだけで安心出来るように思えた。

 目菜の家に着くと、彼女の母親は、娘が彼を連れて帰ってきたことを当然のように迎えて、今日は夕食を食べていくように言った。彼が彼女の母親に礼を言うと、彼女はせかすように、彼を自分の部屋に引っ張って行った。彼女の部屋は、片付いていて、かわいいものがそこそこあるが、よくあるヒロインのようにかわいいもので満たされているわけではない。女性の部屋と感じられる、その程度である。どちらかというと知的な感じではある。彼の趣味に合わせて歴史ものの本が前より増えている。そそくさに彼女は机の上のパソコンを開けて、電源を入れた。そして、キーボードをしばらく叩いてから、

「見て。」

 自分は椅子に座り、彼も別の椅子に座った。彼用に用意してある椅子だ。彼の家の彼の部屋には、やはり彼女用の椅子が常に置いてある。彼女の顔は蒼白だった。息を飲み込んで、パソコンの画面を一緒にのぞき込む。互いに、相手の息吹を感じた。彼女が手を重ねた。 

 画面は、複数の男が一人の女をレイプしているものだった。助けを求める声も聞こえてきた。画像の揺れから素人が撮ったものだと判る。そして、レイプされている女性は目菜だと直ぐに判った。“あの時、撮っていたのか。あいつらは。”怒りと共に怖くなった。逃げたくなったが、目菜の不安気に見つめる目を見て、

「闘おう。」

と彼女の手を握るしかなかった。“無理しなくていいよ。”と目菜は心の中で言ったつもりだったが、彼の言葉にホットした。“今が幸せだと、リア充だと思うなら、これから逃げてはならない。”2人は思った。2人の出会いがここにあるのだから。

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