エピローグ「幼馴染たちの、帰りのバスの中」
◆凪宮 晴斗◆
あれから数時間――ではなく、1日が経過し現在は帰りのバスの中。
宿泊研修の3日間は、予定も狂うことなく全日程を終了した。
旅館を後にし、班行動での施設見学を終えた僕達に残された予定は後1つ。そう、学校への帰宅のみ。……出来ることなら家の側まで乗せていってほしいところではあるのだが。
「いやぁ~。何だかんだ言いつつ、結構楽しかったな!」
「だね~! 人狼が出来なかったのは、少し残念だったけど」
「毎日疲労困憊だったもの。仕方ないよ」
「…………」
行きと同じ座席のため、当然この3人が隣と後ろに座っている。
次第にバスは発車時刻を迎え、ここから数時間は高速道路をひたすら走り目的地である雅ヶ丘高等学校を目指すこととなる。そのため、ここからは自由時間。立ち上がりなどの危険行動を取らなければ、原則禁止にされるようなことはない。
となれば、佐倉さんが初日からやりたがっていた人狼ゲームも出来なくはないのだが。
「ここここ! 写真のブレが酷くてさぁ。私ってこんなにカメラ操作下手だっけ?」
「偶々じゃねぇの? 他の写真が無事なら、それでいいだろ」
「そうかもしれないけどさぁ。何かこう、心残りじゃないけど、やりきれない感があるというか何と言うか……」
当の本人は持参したカメラで写真チェックを行い、その隣の幼馴染は宿泊研修の記録を書きつつ佐倉さんと対話している。どうも、こういう『出来上がった空気』の中に割って入っていくのは気が知れる。
いつもは気を遣われる方だが、偶には僕の方から遣うのもまぁ有りだろう。
だが、正直出来ないことにほっとしている。
別に出来るならそれでも構わないと思ったが、僕個人の中ではどうしてもやりたいことが残っていた。即ち――読書である。
行きは眠気やら何やらで結局、まともに出来なかったし、宿泊研修中には色々とあったからか中々そういう時間も取れなかった。そのお陰も相まって、予定の2冊読了がまだ達成できていないのだ。……決して無駄だったわけじゃないけど。
時間は少なくとも、3時間ほど残っているはず。ならば、この分厚い(400ページ越え)ラノベも読了出来るはずだ。と、僕は栞を抜き取りそのまま読書を始めようとする。
そんなときだった。
コトン、と僕の肩に突然として負荷がかかった。
密室、しかも座席という固定位置。考えずとも負荷の正体が何であるかは、すぐに理解した。一之瀬渚――わが学校にて“学園一の美少女”と名高い、完璧美少女である。
そして、その肩書きに相応しいほど愛くるしい寝顔で、僕の肩へと体重を預けていた。
想像より長い睫毛、耳に掛けられた髪、何故かがら空きな首元。……どうしてか、普段はあまり見ないようにしてきたものが、集中的にオープン状態だ。
「……ったく」
僕は、膝元にかけてあった自分のブレザーを渚に着せる。
正確には羽織らせる、の方だが。
おそらく、昨日の疲労感がまだ抜けきっていないのだろう。完全に泣き止むまで側にいたが、外の世界では想像以上に時間が経過していたらしく、森から出てみればキャンプファイヤは終わっており、後片付けをしている最中だった。
居なかった僕達を心配していた透だったが、どうやら佐倉さんが渚とのことに一枚噛んでいたらしい。本人曰く『相談に乗ってもらっていた』らしいから、おそらくその提で透のことを説得していたのだろう。
……本当、いい友達を持った。
あの頃――クラスメイトともそれなりに仲が良くて、放課後も一緒に遊んで、渚とも普通の関係性が出来上がっていた。それがいきなりどうしてか、全てが敵になった。
きっと、幼いながらの嫉妬だったのだろう。今ならわかる。その感情が、人間の奥底に眠る『本心』を掻き乱すものだということを。
あのことがきっかけで、僕は軽い対人恐怖症のようなものに。渚は誰1人、他人を信用することが無くなってしまった。
中学生時代の僕達が、今の僕達を見たら、一体どう言うんだろうな。
信じられない? まっかな偽物?
……きっと『良かったね』と言うんだろう。
人を信頼しなくなった一方で得たものは、孤独と寂しさだけ。あの頃のような……楽しいとひと時感じた『記憶』だけは消えることなど在りはしなかった。
何よりも欲しかったのは、友達だったはずだから――。
「(……帰ったら、ありがとうって、言おうかな)」
僕はボソッと、そう言葉を溢したのであった。
✻
「えぇ~? これぇ?」
「別に良くね? これはこれで、思い出としてはアリなんじゃねぇの?」
「いや……これ、ただ単にあんたが自慢したいだけの写真じゃん。思い出じゃないし」
「何を~? じゃあ、訊いてみようぜ」
「はいはい。ねぇ、凪宮君、渚ちゃん。この写真なんだけど――」
と、後部座先から美穂は前に座る2人へと声をかけ、そして言葉を呑み込んだ。
「……へぇ」
「ん? どうしたんだ、美穂?」
「しー。静かにしておいてあげよ?」
口許で人差し指を立てる美穂の行動に、透は何となく察した様子で前方座席の2人の様子を見ようと、フロントガラスに映った2人を見る。
そしてそこには、行きでは在り得なかった2人が映り込んでいた。
「ほぉ? 少しは成長した、ってことなんかな」
「そうなんじゃない? ……良かったね、渚ちゃん」
美穂と透は、先程訊ねようとした写真を仕舞い、それぞれスマホとラノベを取り出し、個々の時間を楽しみ始めた。
一方その頃、晴斗と渚はと言うと。
「…………」
「…………」
晴斗の膝元には、読もうと取り出したはずのラノベが栞を挟んだ状態で置かれており、渚の肩には晴斗のブレザーが掛けられている。
先程と同じく渚は晴斗の肩に頭を置き、そして晴斗は座席へと体重を預け、その目は深く閉ざされていた。そんな2人は……お互い離さぬように、手を繋いでいたのだった。
【完】
◆あとがき◆
人間という生き物は、常に何かを考えています。
その考えを明確に定め、コレと断定づけることが出来ないように、私も敢えて定めないことにします。人にはそれぞれ、考えがあるのです。それも……抱え込んでしまうようなものも。
実際、作者本人も『悩みを抱え込む』人です。誰かに迷惑をかけたくない、心配させたくない。……と、親に対してや友達に対しても、思っていたりします。
本音を出すって、人によっては難しかったりするんですよ。文字だと、伝わりにくいですけどね。
はい。そんなこんなで、本日をもって『第二章 最終回』を迎えることが出来ました! これも、いつも温かいコメントや、応援・レビューがあったからこそです! ありがとうございます!
さて、ここからが本題です。
まずいきなりですが──今回の話をもって、この『隣のキミと過ごす、本当の恋人までの一年間。』を、一旦【完結】とさせていただきます。
というのも、この話は話数も多く、新規で来てくださった方々を置いてきぼりにしています。
そのため、先に『新作』を投稿しようと思い、タイミングを合わせ、このシリーズを一旦完結という形にさせて頂こうと思ったわけです。
他にも書きたいのはたくさんあります。
晴斗と渚を支える、透と美穂のお話とか、凪宮兄妹のお話とか……まぁ色々あるわけです。
完結、とはさせていただきますが、人気が残っているようであれば、再びこの作品を投稿する日が来るかもしれません。
それが来るかは、私もわかりません。
ですが、またこのシリーズを書ける日を、楽しみに新作を書こうと思います!
また、この先の6月エピソードの短編を『番外編』としていくつかご用意しております。
そちらも随時更新していくので、よろしくお願いします!
後最後に。
いつも応援して頂き、ありがとうございます!!
これからもこんな未熟で、あとがき長すぎな作者を、どうぞよろしくお願いします!!
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