第50話「幼馴染たちは、消化不良を起こすらしい」
「う~~ん……。これじゃあ行き詰まったのと一緒だよぉ……。透、何か良い解決策とか無いの?」
「………………」
最後の問題は解いてやると僕に言い切ってきた透だが、この調子だと完全な死亡フラグになりそうだ。……まぁ僕も他人のこと言ってる状況じゃないんだが。
この問題に着手してから、およそ10分。このままではゲームオーバーになるのも時間の問題だろう。3つのヒント――これらの意図がわかれば道は見えるはずなんだが。
「くっそ……完全に手詰まりだな。せめて、建物ってだけでもわかればな……っ!」
透の嘆きは尤もだ。
『建物』というヒントだけでも3つまで絞ることが出来たが、これ以上絞ろうと思えば、残りの2つ『人』と『動物』の意図が汲み取れない。……マジで難易度おかしい。
幸い建物の場所は地図で確認出来るし、どこかなどの問題はないんだが……。
「………………んん?」
……僕、今何を考えた?
建物の…………場所? それを確認出来るのが、地図だけ……?
「……っ!! 晴斗、もしかして!!」
「……多分そうだ。勘が合っていれだが、間違いないと思う!」
「えっ……お前ら一体どうした?」
いきなりの行動と言動に驚きをみせる透と佐倉さんを無視して、僕と渚は同時に閃いた『解答』を確認するための作業を開始した。
地図上に丸とバツを、それぞれにマーカーで目立つように印を付けていく。そしてそれらを結び合わせると……それは『ある形』を表した。
「おい、2人して何やって……って、何だよこれ!?」
「す、スゴい……!!」
「……思った通りだ。今までの全部、星型で繋がってる」
僕と渚が共同作業した結果――地図上にはくっきりとマーカーで『星型の陣』が出来上がった。
もちろん、陣が出来上がったことへの理由はある。
そしてその考えを導き出せたのは、認めたくはないが透の言葉がきっかけだ。……本当に気が進まないが、正解に導けたのはこいつのお陰だし、感謝はしておこう。
一方、出来上がった地図に関心の目を向けている佐倉さんは、まるで観察するようにして覗き込んでいた。
そしてその地図には星型以外にも、幾つか気になる線が引かれていることに佐倉さんは気づいたのか「あれっ?」と言って、ある支点を指さした。
「星型の陣の後ろ、ちょっと細めに線入ってる。これは何?」
「それ? それはエリアを区分するための線だよ。陣とは無関係だけど、私が考えてるときに参考にしたやつだから描いたの」
「へぇ~、そうなんだ……って渚ちゃんもわかったの!?」
「うん。一応、晴斗とは答えが一致してて安心したよ」
「スゴい!! 透よりよっぽどスゴいよ!!」
すると佐倉さんは、渚に勢いよく飛びついた。
その衝撃で後ろへと後退してしまった渚だったが、何とか体勢を立て直した。
「さ、佐倉さん?」
「おい! さりげなく彼氏に難癖つけるな!」
どうやら佐倉さんは僕以外、それも友達である渚が僕と同じ答えに辿り着いたことに、全身から喜びを表現しているらしい。そしてその光景を、傍から見守る彼氏どもである。……いや、透は若干怒りを含んでた気がするからそうじゃないか。
それから少しして、渚の背中を降りた佐倉さん。
だがそんな彼女とは真逆に、強烈なアタックから逃れた渚は既にヨレヨレと成り果てていた。……佐倉さん、少しは手加減してあげてください。
渚からの話で身体能力が優れているというのは聞いていたが……これは、絶対言葉以上の威力があるだろうな。
「……大丈夫か?」
「へ、平気平気。いつものことだから」
「いつもなのか……」
初めての、というのもあるかもしれないが、今まで友達という概念が渚の中には無かった分、佐倉さん相手には想像以上に苦労してるんだろう。
だが彼女が浮かべる表情は、決して『後悔』ではない。寧ろその逆、喜びや分かち合い。それらに当たる表情に思えた。
僕は言葉とは裏腹な彼女の表情に、すっと安心感が通り抜けた気がした。
……渚が半分人間不信になってしまったのは、僕が原因だから。
「それでそれで? どうやったらこの陣が出来たの? これが答えなんでしょ?」
「そうだな。1つずつ解説するよ。――まず、この星型の陣の説明からだな。星型の頂点は5つ、つまり5つの角が出来る。んで、注目してほしいのは頂点、つまり『施設』だ」
「「施設……?」」
2人は同時にまったく似た反応をみせ、身を乗り出して地図に描かれた星の頂点に目を配る。
すると暫く考えた後に「あっ!」と声を上げたのは佐倉さんだった。
「この北側の頂点! これって、さっき私達が行った『触れ合い広場』だよね?」
「正解。他のところも見てみて?」
「他のところ? えぇっと……西側は『食堂』だろ? それから東側には『待ち合わせ広場』がある」
「……っ! ま、待って! もしかして、この南側にある二つの印って『駐車場』に飯盒炊爨で使った『キャンプ場』でしょ!!」
「正解。駐車場には、このキャンプ場を管理する監視センターがあるし、キャンプ場の近くには飯盒炊爨に必要な道具を売ってるお店がある。……つまり、どういうことだ?」
僕は少々微笑んで訊ねる。
さすがにここまで言えばこの2人ならわかるはずだ。
「なるほどな! つまりこの頂点の位置には、全て建物が建てられてるってわけか!」
「──アホか」
「……へっ?」
「普通に考えろ。今でさえ躓いてるこの状況に、更に3つ4つ増やしてどうする」
盛大に踏み外すな。ボケか何かだと思うだろうが。
そんな彼に呆れの態度をみせるのは僕だけではなく、ボケを踏み抜いた彼氏を目の当たりにした佐倉さんもだった。大変だな、この幼馴染たちも。
「……逆に考えるんだよ。この中に、1つだけ建物がない場所がある。そこが答え」
「正解だ」
「な、何でそうなった……」
「建物がある場所、そう考えてきたけどそれ自体が間違いなんだ。ヒントそのものが罠なんだよ、なぞなぞとかにも良くある」
「いやさすがにねぇだろ!!」
最後の最後で消化不良を起こした人みたいになってる、こいつ。図が面白い。
……とはいえ、僕も渚も解けたときは『やりきれない感』というよりかは『騙された感』の方が多く残ったほどだ。透が感じたこともあながち否定は出来ない。
ちなみに言うと、建物がない場所というのは――最初に集合した『待ち合わせ広場』になる。施設という単語でひと纏めするのであれば、待ち合わせ広場は立派な施設だ。
そもそもの間違い。それは『施設=建物』だと、勝手に置き換わっていたこと。
それで云うのであれば『触れ合い広場』もそれに該当するだろうが、あそこには動物達が寝床とし、飼育員さん達が入れ替わり立ち替わりしている建物がある。動物園で言う立ち入り禁止の建物だ。
でも、待ち合わせ広場はあくまでも広場でしかない。
特別建物があるわけでもないため、あそこは施設という認識でしかないのだ。
……まぁ、もっと細かい説明をするといろいろとややこしくなるが、要するにこの問題は先生達の意図を読むことが大事なのだ。
時間が足りない。
問題それぞれに悪意がある。
わざわざエリアを移動させる。
以上の悪戯だらけのことを踏まえると、最後も絶対罠だろう。敢えて、建物のある場所を選ばせる……ってな。
これはもう、ミニゲームではなく、ただのタチが悪いゲームだな。
僕は消化不良を起こしている透を見て、ちょっとばかり共感出来る気がした。
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