第23話「幼馴染は、彼氏へのプレゼントを選ぶらしい②」
それからお店の中へと入店し、端に置かれたショーケースの中に飾られている立派な腕時計に目が奪われる。
……だがそれと同時に、商品の前に置かれた値札を見た瞬間に心が折れた。学生がアルバイトして買うにしてもハードルが高すぎた。
しかし――それは有名店の品ばかり。高額なのは仕方ない。
物価の高いコーナーから少し離れて、小棚がズラリと並んだ場所へ移動する。
そこには先程の高額商品とは打って変わり、私のバイト代で賄えるほどの腕時計が多数あった。お小遣いも少し使うことになりそうなものもあるけど、それでも相当な金額だ。
「佐倉さん、ちょっといい?」
「んー?」
私は違う棚を見ていた佐倉さんに声をかける。
藤崎君に似合う物とかでも見ていたんだろうか。そう考えると不思議と笑みが浮かんでくる。見ていたのはブランド品ではなく、極々普通の腕時計コーナーだったけど。
「この棚の物だったら、私でも選べそうなのがいくつかあるんだけど。どういうのがオススメなのかとか、そういうのがわからなくて」
「うーーん。残念ながら人を見る目はあっても、物価の価値が明確に測れる目は持ち合わせてないんだよね。でもそうだねぇ……。凪宮君は、あまり派手なのは使わなさそうだし好まないのは確定として。まぁ、無難なのが1番似合うんじゃない?」
「……無難……かぁ」
目の前の棚に飾られている腕時計の中で、あまり目立たず大きくもなければ小さくもない大きさの物を幾つか手に取って選考した。
「……どう、かな?」
「どうって言われても、私だって腕時計を誰かにあげた経験なんてないし、具体的にどれがいいかなんて選考は出来ないよ?」
「……それもそうだね」
先程ショーケースを眺めていた佐倉さんは、新しいおもちゃを見つけた子どものような純粋さがあった。あの表情の本質を、私は知っている。
自分が持たないものに異常な執着を魅せるときがあるが、それは人間の本質上、自分自身が普段目にしないものを見たときや新しいものを目にしたときに起こる反応だ。
そのことから、佐倉さんも私と同様に腕時計を買ったことがない。
もしくは身に着けたことがないのどちらか。
有力候補としては前者だろうけど。
それに一言に『腕時計』と呼称しても、色々な種類のものが存在する。
それこそメーカーであったり柄であったりタイプであったりと、個々で使いやすさも違ってくるだろう。
その前提として、腕時計は大きく分けて「クォーツ式」と「機械式」の2種類がある。
一般的に使用されているのはクォーツ式――要するに、電池式で動くタイプだ。
そして逆に機械式というのは――電池を使ったクォーツ指揮とは異なり、ゼンマイを巻いて動かす手動型のことを言うそうだ。
そのため今手元にある2つの腕時計はどちらもクォーツ式。
と言っても、晴斗は特別機械に強いというわけではない。才色兼備に運動神経抜群という事実があっても、晴斗は何でも出来る完璧超人……ではないはず。
さすがにそこまで万能だったら、幼馴染の私でも恐怖を覚える……。
それから数分、試行錯誤を繰り返し、結局は無難な黒色のクォーツ式腕時計を選んだ。
私があれこれと考えていた中佐倉さんは、
「そういえば、腕時計にもアラームが鳴る機能とかあるんだっけ」
「えっ、そうなの?」
「私はスマホのアラーム使っちゃうからあれだけど、確か針で時間設定したりとか、後はゼンマイ回して……ってのもあったはずだよー。凪宮君って結構起きるの遅いんでしょ? なら、そういうので考えてもいいんじゃない?」
アラーム機能と聞いて、少しだけ思い当たった節がある。
それは、晴斗は朝には激的に弱いことだ。普段は妹の優衣ちゃんが受験生ということもあって家事全般を引き受けているのを理由に、朝寝坊をすることはほとんどないけれど。
――だが、ずっとこうだったわけじゃない。
私達が中学生だった頃。
晴斗は誰よりも寝起きが悪くて、1度寝出すと中々起きなかった。その度に起こすのが私の習慣になっていて、それは今でも『メッセージ』という形になって継続中なのだ。
「……悪くない、かも」
「おっ、まさかの採用」
感嘆な声をあげた佐倉さんの横を通って、選んだ小型のクォーツ式腕時計を購入した。
店員さんに『アラーム設定』についての説明を聞いたところ、どうやらこの機種でも出来るらしくやり方を教えてもらった。ありがとうございます。
さて、気になる値段は……敢えて言わない。
こういうことを言ってしまうのは、デリカシーが何とかって昔誰かが言っていた。それに、せっかくのお祝い品にあんまり現実的な話は避けたいし。
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