第12話「私の友達が、アルバイト先にやって来る①」
地元から少し離れた駅のホームの中にある、小さな喫茶店。
人気が程々であり、程よい客足に焦る必要もなく、まだこの喫茶店で働き始めて約数十日――学校での私の立ち位置を考えると、この場所は居心地がいい。
それに、コンビニやファミレスのような急な慌ただしさも無くて失敗することも少ない。程よい客足だからこそ可能なことだと思う。
普段学校へ通う際、私と晴斗は基本徒歩なため晴斗が電車を利用することなどほとんどない。それに、晴斗が利用する本屋は最寄り駅の近くか家の近くの書店のみ。つまり――どうやっても晴斗がここに来ることはない。
まず大前提として、晴斗は客足が多いところにはやってこない。
私が働いている喫茶店に来るなど百歩譲ってもありえないのである。……本当、書店にしなくて良かったなと思う。ここまで警戒する必要もないとは思うけど、念のためってのはあるからね。仕方ないよね。
私がカウンターで皿洗いをしながら物思いに耽っていると、店の入店を知らせるベルが鳴った。
「いらっしゃいませー!」
「あっ、いたいた! どう、バイトの調子は?」
「佐倉さん。いらっしゃい!」
入店してきたのは同じ学校の制服を身に纏った、茶髪に橙色の瞳を持ったポニーテールの少女――『佐倉美穂』さんだった。
彼女は私や晴斗と同じクラスメイトで、私が晴斗以外で唯一自分自身を曝け出せる友達である。そして、晴斗の友達(?)である『藤崎透』君の幼馴染兼恋人でもある。
数週間前――佐倉さんと藤崎君が恋人同士であることを知ったとき、この世には不思議な縁があるものだと本当に驚いた。……
佐倉さんはカウンター席へと座ると、メニュー板を手に取り中身を開いた。
この喫茶店では主に、昼食メニューからスイーツメニューまでの軽食をなどを取り扱っている。そのため、基本的にここへ来るお客さんは女子学生やママ友さん達が多いのだ。
「ふーーん……」
「……どうかしたの?」
すると、佐倉さんは私の方へ頬杖を付きながら見つめてきた。
「いや。その眼鏡、良い感じに似合ってるな~と思ってさ! 変装って意味で渡したのに、これじゃあ逆に目立っちゃわない?」
「そ、そういうものなの?」
「そういうものです。いくら彼氏持ちでもそれは互いの認識共有でしかない。初見の人には見破る能力なんて皆無なんだから、少しは自覚しないと!」
「う、うん……?」
そう、私はこの喫茶店でアルバイトをするとき、佐倉さんから渡されたフレームが薄い眼鏡を掛けている。とはいえ、度は入っていないため視力的な問題はどこにもないのだけど。その代わりか、ブルーライトカットが入っているらしくかなり目に優しい使用のために、夜勉強するときなんかも使っていたりする。
「まぁそれはそれとして――今日のオススメって何?」
「えっとね、ショートケーキかな。太る可能性が少なかったらオススメだよ」
「うわぁぁ〜……それ、ちょっとした嫌味だよ?」
「女子高生の悩みかと思って」
「そんなダイレクトな悩みを提示してこなくて大丈夫だから……」
普段は明るい雰囲気が目立つ佐倉さんが、今は珍しいことにわかりやすく落ち込んでいる。……そんなにデリケートなことだったかな?
私は基本、勉強にも運動にも手を抜かないために体型などに大きく差が無い。
だからこそ周りの子達が言う――『甘いものばっか食べてたら太るよー?』何ていう他愛もない会話の意図も理解が出来ていなかったりする。
「ま、いいや。それよりもさ、凪宮君に誕生日プレゼントを買うためにバイトしてるんでしょ? その当の本人の誕生日っていつなの?」
「えっ? ……5月15日、だけど?」
「ということは、明日でここのアルバイトは終わりってこと?」
「……まぁ、そういうことになるのかな」
そう、私はあくまで短期バイトということでここで働かせてもらっている。その理由は先程も言ったように、晴斗へのプレゼント資金を集めるため。
そのため、晴斗の誕生日前日までの期間しかここでバイトはしない。そういう契約だ。
私からの返しを聞いた佐倉さんは「そっかぁ~……」と少し落胆しながら私の方へと視線を上げた。
「……正直好きだったんだけどなぁ~。こうやってカウンター席に立って接客してる渚ちゃんを見るのって」
「もう……恥ずかしいこと言わないでよぉ」
「何を恥ずかしがってるのか。もっと恥ずかしいことしてるじゃない、色々と」
「そ、そんなことしてないよっ!!」
「本当かな~? その慌てよう、どうも何かがあった匂いがプンプンするのですが?」
「……か、からかわないでよっ! ――もぉぉ~~っ!!」
こういうときにふと思う。
晴斗と藤崎君のやり取りを中学からの3年間、側で見てきた影響かもしれないが――佐倉さんの人をからかって遊ぶスタイル、そのどこかが藤崎君と重なる部分がある。
あんな風に人のことを煽るような言葉遣いと言い、藤崎君が普段晴斗にしていることと良く似ているのだ。……私と晴斗とは、また違う意味で似た幼馴染なのだと、常々思う。
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