第43話「幼馴染と、本屋にラノベを買いに行く①」
放課後。
いつもなら誰かしらと話し相手をする渚が「ごめんっ!」としっかり断りを入れてから校門へと向かって行った。……あいつの中の優先順位、おかしいな。本当に。
その後、人目を避けつつ落ち合った僕達は、近場の本屋へ向かって歩き出す。
学校の校門を出てからおよそ10分ほど歩くと、大勢の人間が行き来する駅前に到着。その内の一店舗へと入店する。
落ち着きのある客足と、無数の本棚。奥には雑貨物やCD、DVDなんかも扱うコーナーがあるが、今回の目的はそこじゃない。
雑貨物の並ぶコーナーを抜け、すぐに見えるのは漫画や雑誌、ライトノベルが並ぶ本棚が顔を覗かせた。その一角では、アニメ化などのメディア関連の本が中心で並んでいる棚なんかもあり、『ひげひろ』や『おさまけ』などの有名タイトルが並べられている。
客が少ないというわけではない、丁度いい混み具合。大所帯にならないところが、僕がこのお店に通う最大の利点だ。
「……これ、PVとかで見たかも。確か、今季から始まるやつだったっけ?」
「そうだな。この辺なんかは人気もあるし、選ぶんだったらオススメだぞ」
「うっ……さ、早速ラノベマニアさんからの評判の声が……っ!」
いやだからお前の基準おかしいだろ。
80万部、100万部以上も売れてる有名のライトノベルがズラリと並んでるこの本棚を目の前にしても、一読者である僕の意見しか取り入れないのは、どう考えてもおかしい。
もっと支持を聞け! もっとネット活用しろ原始人。
「うぅぅ~~……。結構、こういうの目の前にすると、どれを買うべきなのかわからなくなるなぁ~……」
「迷ってんなら、新作表記のやつとかでもいいんじゃないか? 元々、ラブコメ買いに来たんだろ?」
「……そう、だけどぉぉ」
何か含みのある言い方をするな。
それに、僕が読むラノベに興味を持ったという過程が合っているなら、僕が読んでたのをそのまま買えばいいと思うんだが。
すると、渚は眉を顰めながら真剣な眼差しを向けてきた。
「……ねぇ晴斗」
「どした?」
「こんなに種類があると、結構迷ったりしない!? ……私今、物凄い衝動に駆られてるんだけど!? 晴斗はどうやって決めてるの?」
「手当たり次第だぞ、僕は」
「そ、そうだった……。この人、元からラノベ派だったんだった……。訊く相手間違えた気分なんだけど」
「失礼な。それに偶には読むぞ、一般小説も」
「偶にでしょ……?」
「まぁ、そうだな」
渚が迷う原因はおそらく目の前に並ぶ書籍の種類だろう。
『ラブコメ』と一括りのジャンルにしても、その中身は様々だ。それこそ“幼馴染モノ”に“きょうだいモノ”とか。後今人気なので云うと“年の差モノ”とか“元カップルモノ”などなど。
思い返してみれば納得した。……確かにこんなにも種類があると、どれを読めばいいのか初心者だとわかんなくなるわな。
僕の場合――気になる新刊を手当たり次第に買い漁って読んでるってタイプだから、迷うっていう動作が無いのだ。
初心のときに無かったかと訊かれれば嘘になるが、それももう――5年前のこと。
小学生時代からラノベに手を伸ばしていた僕にとっては、お小遣いの捌け口が全部そこに向いてたし、渚のような戸惑いもコンマ数秒で消えていた。
現に今目の前に広がっている新刊の山。
ざっと千冊を超えるこの本を数に目眩がするかもしれないが、僕からしてみればここは――箱庭だ。いや、最早『宝石箱』と言ってもいい。
三次元という名の『現実世界』から目を背けたいわけじゃない。
だが、この二次元という『創作世界』で繰り広げられる、想像力と創造力が僕をここまでのマニアへと育て上げた。
感じ方は人それぞれ。影響の受け方も、読む人によってだいぶ変わってくるだろうが……少なくとも、感動を知ってしまえば、続きを買いたくなる。
それが、ライトノベルの素晴らしさの1つだと思う。
……しかし、それはあくまで僕個人の意見であり、こいつの主張ではない。
現在だと、だいぶラブコメにもレパートリーが増え、種類も豊富なために多種多様なラブコメに一々手を出していたら、キリがないと思う。
それも、初めてラブコメに手を出そうとしていたら尚更だ。
オススメのやつを選んだりするのが1番……と、言いたいところだけど、今のこいつにそれを言っても仕方ない。めっちゃ真剣そうだし、同様に悩んでいるのも明白だ。
初心者なんだし、読みやすい方が慣れるのも早いよな。
――そこで僕は、少し離れた本棚から1冊のラノベを抜いた。
「ん」
「……晴斗?」
「これだったら早く読めると思う。オススメ」
「……どんな話なの?」
「高校生ラブコメ。でも、普通のラブコメより文章力高めだし、キャラクターに感情移入出来ると思う。後、焦れじれ系だし、多くの人から支持集めてるから」
「……ちょっと待ってね。少し内容読んでみる」
僕から本を受け取ると、渚は肩に掛けている鞄を持ち直し、ラッピングされていない見本誌を手にし、その場で立ち読みを始める。
……こんなに真剣に読書に向かってる渚を見るの、初めてだな。
今までお互いの趣味で盛り上がったことはあれど、そこの会話内容の中にお互いの読んだ本の内容の話は一切無かった。
ただ、どういった本があってとか。
この本がドラマ化とかアニメ化する的な話とか。
趣味の一致はあれど、その程度の話しかしない。読書はほとんど僕しかしてなくて、渚は自分の家で読むみたいだし。
なのに今、こうして幼馴染が僕と同じところに手を伸ばそうとしている。
……それだけの、たった1つ、共有出来るものが増えるだけなのに。
なのに――どうして、こんなに嬉しいんだろう。
自分の胸の鼓動が、僅かに早くなっているのがわかった。
彼女の
そしてそれと同時に――何か特別感のような気持ちが、心の底から浮上してきたような気分になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます