第37話「私は、友達に頼りたいらしい」
「……ヤバいかも」
何がヤバいって……もう何か色々と!
1番は、こんなとんでもない運動神経の女子と組んでしまったことを悔やんでいる自分がいること。
晴斗と、幼馴染と肩を堂々と並べられるようになるには、私が晴斗と同じぐらいに完璧にならなきゃいけない。晴斗と同じ、とはいかなくとも、私なりの精一杯をぶつけようと努力してきたつもりだった。……この日のためだけに。
……でも、この結果を目の当たりにして、現実を押し付けられた気がした。
晴斗だけがこの世の全てじゃない。
上には上が、高みには壁がある――今まさに、私の目の前には、1枚の鉄壁が存在している。これを突破しなくちゃ、晴斗と肩を並べることなんて……夢のまた夢。
平均から少し伸ばしたような記録じゃダメ。
佐倉さんと同等の実力が、私には必要に思えた。
……だけどそんなご都合展開、夢見る空想上の世界じゃないんだから起きるはずもない。
神様が転生させてくれて……とか。
異世界に転移させられて脅威的な力をつけて帰ってきた……とか。
ファンタジー作品の読みすぎが心配されるようなご都合展開を、少なくとも、このときの私は少しだけ期待していたのかもしれない。
「――おーい!」
「…………えっ?」
「いや、え、はこっちの台詞なんだけど。どうしたの? さっきから意識が飛んでるような感じしてたけど。何か悩み事でもある?」
「い、いや……そういうわけじゃ……」
きっと佐倉さんは夢にも思っていない。
意識が飛んでる、のは言い過ぎだと思うけれど、それは――佐倉さんのことを『嫌だ』と感じてしまったから……なんて。
い、言えない……。
佐倉さんに悪気は一切無いと思うし、何よりそれは彼女の言動からも察せられる。
これは、私が勝手に抱く邪念。……本当、嫌な人だよね私って。
すると何かを考え込むようにして「うぅ~ん……」と彼女は唸り出す。
「……よくわからないけど、それって今大事なこと?」
「えっ……」
……もしかしてだけど、一緒に考えてくれてた?
何を悩んでいるのか、何を考えているのかすら言っていないのに、彼女は私の悩みを取り払おうとしてくれていたのだろうか?
もう……どんだけ過保護なのか。……いい人すぎる。逆に心配になってくるレベル。
「う、ううん」
首を横に振るしか選択肢は存在しなかった。
「そっか。なら、さっさとやっちゃいなよー!」
「……うん」
こんなにも親身になって相談に乗ってくれた人を……私は晴斗以外に知らない。
晴斗の妹――優衣ちゃんも結構相談乗ってくれることはあるけど、それはあくまで私の事情を知っているから。でも佐倉さんは……何も知らない。
何に焦りを募らせているのかも、自分が今――佐倉さんにライバル視をしていることも。
何も……知らないはずなのに――。
「……ふぅー」
私は壁に背中をくっ付け、ゆっくりと背中を倒してゆく。
「頑張れー!」と声を上げて応援してくれる佐倉さんは、必死すぎて息切れを起こしそうな顔をしている。取り組んでるの、私のはずなのに……こんなに、必死に応援してくれる。
――本当にいい友達を持ったな、私。
結果は平均より上だったものの46センチ。佐倉さんの結果には足元にも及ばなかった。……当然の結果、だね。
上ばかり見すぎてた。足元を掬われた気分だった。
……でも、今の私には、始める前までの憂鬱な気分は一切なくて――寧ろ清々しい。やりきった気分の方が勝っていた。
佐倉さんは私の結果を記入している中「頑張ったね!!」とお世辞でもない、本心からの笑顔を浮かべてそう言った。
……友達とは、こんなにも嬉しいものだったのだと。今、初めて理解した。
ヤバい……。これ、嬉しすぎる……っ!!
「さてと。じゃあ次は――」
「ねぇ、佐倉さん」
次の測定場所を探そうとしていた佐倉さんに、私は息を整えながら声をかける。
「ん? どうかしたの?」
「その……さっきのこと、何だけど」
「さっき? ……ああ! 何か悩んでるかーってやつ?」
「う、うん。えっと……そのことなんだけど」
「――ストップ!」
と、私が悩みを打ち明けようと開口した途端、佐倉さんは私を静止させた。
「え、えっと……」
「ごめんね。確かに、渚ちゃんのことについては知りたいこと多めだけど……そのことは、測定終わってからゆっくり聞くことにするよ!」
「……えっ?」
「だって、今は測定の方が大事でしょ? いい結果が残せなかったら後々後悔することになるし、私はそんなの嫌。だから、一旦そのことは忘れた方が、お互い気遅れしないで済むでしょ?」
佐倉さんの意見は尤もだった。
今するべきことは『打ち明ける』ことじゃない。『自分の記録を残す』ことだと思う。
でも私って、動揺したり悩み事を抱えてたりすると、こんなに普通の提案にすら感動する人だったけ……?
佐倉さんが言ったことは何も難しいことじゃない。
今していることは何か――それを考えればわかる話だったのに。……恥ずかしいっ!!
「……そう、だね。そうする」
「よし! あっ、何ならカフェにでも行こっか! この近くに昔から知ってる行きつけのお店があるんだー!」
「カ、カフェ?」
「うん。あ、もしかして寄り道禁止的なのある?」
「い、いや……そういうのはない、けど」
少し意外に思われただろうか、ちょっと疑問符を浮かべた顔をしてる。
クラストップカーストなんて大層な二つ名を持っている私だけれど、誰かと放課後に寄り道をするなんてことはしない。
そんな時間があるなら、晴斗との時間に当てたい。
たとえ彼の家で本を読む。それだけの時間だったとしても、私にとっては彼と同じ空間に居られる――そう実感出来る、唯一の時間だから。
「じゃあ、いいかな?」
佐倉さんはノリがいい。それは決して悪いことじゃない。そんなのより、クラスメイトとの会話に疎い私を引っ張ってくれる――本当に、スゴい長所だと思う。
「……うん。いいよ」
「はい! 決まりだね! そんじゃあ、さっさと残りのやっちゃおー!」
そう言った佐倉さんは更に勢いが増したらしく、運動神経を発揮し出したように私よりもいい好成績を残し続けた。
幸いなことに、私にも佐倉さんに勝てる唯一の競技があった。
それが、握力測定。……とは言っても、たった2つしか数字が違わなかったけど。
そしてあっという間に時間と体力は削られていき、女子の測定は終了した。
更衣室を出る頃には、入れ替わるようにして男子達が登校してきていた。その中に晴斗を見つけることは出来なかったけど、きっとまた手加減するんだろうなぁ。テストのときだけだ。彼が実力を出すのは。その話は――また別の話。
■追加項目■
今のところ不定期で投稿してる『となおさ』ですが、何時投稿がいいとか、そういうのありますか?
良かったら、コメントなどで教えてくれると助かります(謝罪)。
そうしたら私も、その時刻に投稿出来るよう努力しますので(汗)
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