第34話「学園一の美少女とクラスメイト」

「はーい。それじゃあじっとしててくださいねー」


「……はい」


 あれから2日――今日は注視していた身体測定の日。


 今は保健室で身長と体重、それからウエストを測っている。……正直な話、これほどまでに億劫になる行事って、そうそう無いと思う。

 大体は参加しながらサボれるし、他人と競うことで自分に挑戦出来たりするものだけど……こんな個人のプライバシー満載な行事、一体誰が考案したのか。


 せめて、この記入用紙を生徒に持たせるっていうシステムだけは変えて欲しい。

 私はあまり見せる気にはならないけど、相手によっては覗きに来たりとかする子もいるみたいだし……そういうのは嫌いだから。


「……大きいわね」


「へっ……?」


 今、先生が私の胸を見ながら「大きい」って言った気がしたんだけど……。

 いや、気がしたんじゃない。現に目の前でガン見されてる……!


「あ、あの……先生? 後が詰まるので、その……」


「……はっ! そ、そうだったわね。じゃあ、測定台に乗ってね」


「は、はい」


 それからは何のトラブルも無く、私は保健室のカーテンの影で着替えていた。といっても、脱いでいた下着を着るだけなんだけど。


 身長は158センチ。去年よりも伸びているのか、怪しい数字になってしまった。

 これでもし、晴斗の身長が去年よりも高くなっていたら……何か、別の意味で悔しい!


 幼馴染という関係上、近くにいることが多いからか、晴斗の身長が今の男子高校生のどれくらいの場所に位置するのか……全くわからない。近くに居すぎるのも問題だよね……。


 特にこういう時期。

 主に高校生ぐらいの歳頃が1番成長しやすいみたいだし、自分の成長期が止まっていないか、とても不安。


 そんな焦燥感に煽られながらも考えを押し留め、私はシャツを着直す。

 えぇっと……次は確か、視力測定だったはず。


 そしてそれを終えれば、が必須になる――体力測定が始まる。


 この身体測定は個人で各教室へと向かいながら測定を特定の場所で行い、そして体育館へと移動して体力測定……という流れになっている。

 要するに、それまでにパートナーを見つけなくちゃいけないわけだけど……。


「はぁ……。先が思いやられる……」


 ふと、溜めごとが口に出てしまった。

 けれど周りにはまだ人はいない。それに私だって、小言を漏らすことだってあるに決まってるし、一々気にすることもないよね。


「……あのぉ~」


「……?」


 保健室を退出しようとしていた矢先、ふと隣で声をかけられた。

 振り向くとそこには、1人の女の子がいた。


「えっと。一之瀬さん、だよね?」


「……えぇ」


 どうやら私のことを知っているらしい。

 よくよく考えれば、あれだけクラス内で大騒ぎしているのだから、他クラスの女子にまで知れ渡っていても無理はないか。


「私に何か用?」


「うん。私ね、同じクラスなんだけど。わかるかな?」


「………………」


 同じクラスだったのね。今まで話したことなかったから知らなかった。

 ……でも、言われてみれば見たことある容姿だった。


 茶髪に橙色の瞳、髪は高い位置のポニーテールで纏めている。

 外見は少し幼さが残っており私よりも身長は低め。今すぐにでも抱き締めたい感じがしてくる。……例えるなら、リスみたいな?


「その反応、忘れてましたって顔かな?」


「ご、ごめんなさい。まだ入学したばかりで、全員の顔と名前が一致してなくて」


「あははっ! そこまで否定することないよ! それに、話すタイミングが中々掴めなかったこっちも悪いしね。気にしないでよ!」


「……タイミング?」


「うん。だって一之瀬さん、普段から仲良さそうに喋ってる人達と、あんまりって感じだったからさ~! 結構固い子なのかな~? とか思ってて」


「……っ!!」


 ……図星だった。

 彼女の言っていることは何も間違っていない。それが事実。私がどんな風に周りと接してきたのかの、何よりの証明だった。


「……図星、だったかな」


「……どうしてそんなこと訊いてきたの」


 極力周りにはバレないよう、完璧な外面を作ってきたつもりだったのに……この子には、通用していないどころかバレていた。


 動揺しているのは明白。

 だってそうでしょう? ……こんな近くに、私の本性を見破る人がいれば動揺もする。


 いぶかしげな表情をした私を見て、彼女は一瞬怯んだ。


「……ごめんね。確証はあったんだけど、どういった聞き方をすればいいのかとか、わかんなかったから。失礼な言い方しちゃったよね、ごめん」


「別に、そのことはいいわよ……ちょっとショックだったけど」


「それで、私がどうしてそんなことを訊いたのか、だよね」


「……えぇ」


「うーん……何て言えばいいのかな。一之瀬さんが、、かな」


「えっ……?」


「ちょっと知り合いに、一之瀬さんのこと聞いてね。結構私と似てる部分あるかもよ、って言ってきたもんだから、ちょっと興味持ってね。だから、厳密な理由はないの。話をしてみたかっただけ。でも、それで一之瀬さんに嫌われたらどうしようもないね……」


「き、嫌ってなんかない。ちょっと……ビックリしただけっていうか。そ、そもそも、私はそこまで器小さくないわよ……。簡単に嫌いになる人間はいないから」


「そっか。ならよかった!」


 にしし、と満開の笑みを浮かべてくる彼女。確か名前は……佐倉さくらさん、だったかな。


 次の教室へと向かう中で展開される会話だけで、彼女の人相がだいぶはっきりしてきた気がする。

 それに――同性と、それもクラスメイトとここまで近接で話すのなんて、初めてかも。

 今までが今までなだけに、こんなにも会話が心地良いとは知らなかった。


 佐倉さんは陽キャみたいだけど、今まで教室の中で話したことなんてなかったな。そもそも、どういう子かもわからなかったし。


 それと気になるのが1つ。

 佐倉さんが言っていた――『ちょっと前の私と似てたから』って、一体どういう……?

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