第20話「幼馴染は、妹へのプレゼントに葛藤する」
授業を受けながら考えていた。
あのハル君が私を誘ってまでデート……じゃなくて、お出掛けをしたかったのか。
――と、そんな疑問もすぐに解決した。
黒板に書かれた『日にち』が真実を物語っていたから。
4月17日。
この日を目にした直後、私は「なるほどね」と納得した。
学校にとっては決して特別な意味のない日。けれど私とハル君にとっては、寧ろ今日でしか出来ない、特別な日。
のんびりで温厚とは言い難いハル君だけど……さすがに無視出来ないイベントだ。
別に今日は『新刊の発売日!』とか、最もらしい日ではない。今年のこの日でしか祝えない、特別な日だ。
今日は、ハル君の妹――優衣ちゃんの誕生日なのである。
✻
「悪いな、付き合わせて」
「何で? 別に無理はしてないし、何より優衣ちゃんのためだからね!」
「いや、そうじゃなくて……」
「何よ。はっきり言ったら?」
「……女子に、誘われてただろ。放課後のことで」
「……あぁー。あれのことか。気に病むことないよ。私だってその日の気分っていうのがあるんだし。それに、ハル君から“誘われた”ってイベントの方が重要だからね!」
「……変な奴」
「今更それを気にするの?」
「再認識させられた気分……ってとこ」
「何それー!」
放課後の帰路――いつもはバラバラで帰ることが多いのだが、今日はハル君とのデート……ではなく、お出掛けのために帰路は一緒。
そして何を思ったのか、彼は私に謝辞を入れてきた。
別に気にすることでもないと思うんだけど。こういう謙虚なところ、本当に好きだ。
「それより、プレゼント買いに行くんでしょ? 具体的には何にするの?」
「…………わかってて訊いてるか、それ」
「さぁ? どっちでしょうね?」
にしし、と笑みを零してみる。
そう、私がハル君に『放課後、付き合ってくれ』と頼まれたのは、今日誕生日である優衣ちゃんへのプレゼントを買うため。
普通にあげれば何でも喜びそうではあるけどね。
ハル君の妹なんだし、優衣ちゃんのことは一番わかってると思うんだけど――、
「私を誘ったのって、去年の二の舞を避けるためですよね?」
「……慣れてないんだよ。人に何かをあげるってことに」
確かに何かと縁が無さそうだもんね。口が裂けても言えることじゃないけど。
「自ら選んで用意なんて、滅多にしないもんね!」
「……嫌味か。悪かったな、僕は常習犯じゃないもんで」
「ちょっ! 誰のこと言ってるの!」
「その発言はその『誰』がわかっていそうな台詞だが、もう1度言ってやろうか?」
「結構です……」
釈然としないが、ハル君が日頃から私をどういう目で見ているのかがよーく分かったような気がする。
「話戻すけど……結局何買うの? 優衣ちゃんへのプレゼント」
「プレゼント……プレゼント……」
ぶつぶつと、お経を唱えるかのように呟くハル君。こ、怖い……。
そんな素振りを見せてから暫くして、ハル君は懐からスマホを取り出し検索アプリを開いた。そして新しくページを作った後、そこに口元を添える。
「オーケーグーグル。女子が喜ぶプレゼント」
「先生に頼るなっ!」
何で実の妹にあげるプレゼントを実の兄が考えずに、他人の先生に頼ろうとしてるのか。
明らかに逃げた――それだけは確信出来る。
「何故止める。先生は万国共通、悩んだときに助けてくれる便利ツールだぞ」
「少しは自分で考えなさいよって言ってるの!」
「考えた。で、考えた結果がこれだ」
「それは『考えた』って言わないから……。寧ろランクダウンしてるよ……」
「じゃあ、何がいいんだよ」
「そんなにわからない? 普通にプレゼント用意すれば、優衣ちゃんなら喜んでくれると思うけど」
「……確か去年も同じようなことを言われて。そんで用意してみたら、去年みたいになったんだが」
「いや……あれはプレゼントとは呼ばないよ……。有効的すぎて落としどころないし」
「…………オーケーグーグル。プレゼント常習犯が選ぶやつ」
「そんなこと先生に訊かないのっ!!」
本当、ハル君は世間ブームだとかに疎すぎる。絶対流行とか乗ってこないタイプ。
こうして今、万国共通で対応出来る先生に頼っている。このことから察するに、男の子であるハル君には、年頃の女の子が貰って喜ぶプレゼントとやらがわからないのだろう。
大体読めてきた。どうして優衣ちゃんの誕生日プレゼントを買うのに、わざわざ私を誘ったりしたのかが。
安全に、普通のプレゼントを買うためだろう。
でなければ去年のように……、
――ほい、ノートだ
――活用しかないやつを買ってくるなっ!
誕生日プレゼントの相応しくない贈り物ナンバーワン――学生にとっては有効活用しか見出せない『学習ノート』と同等のものを買い兼ねない。空気を読めない沙汰である。
おそらくハル君なりに、去年の反省を活かしたいのだろう。
身内とはいえ、年に1度の誕生日。妹のためにちゃんとしたプレゼントを用意したいと思う辺り、やっぱりお兄ちゃんだなぁと思い知らされる。
日頃はそういう一面とかあまり見ないし。
寧ろ、本当は長男長女逆なんじゃないか? という疑問さえ浮上していたほど。
改めてこういう場を見ると、激しくそう思う。
「……やっぱりさ。ハル君が実際に見て選んだものの方が嬉しいと思うよ?」
「……でも、出来ないからこうしてお前を連れ回しているわけで」
「無理矢理連行されたんですが……」
授業中に納得したのはさて置いて――実はこの要件を説明されたのは、ついさっき。
メッセージで届いた内容は『放課後、付き合ってくれ』としかなかったから、在らぬ誤解を作ってしまったが、言ってくれれば素直に着いて行った。
それどころか、自主的に協力したっていうのに。
……本当、変なところで不器用だな。
「し、仕方ないだろ。透に言ってもからかってくるだけだし、なら頼れる人って言ったらお前ぐらいだし――」
「…………………………」
……まただ。どうしてこんなにも過剰反応してしまうのか。
ハル君が誰と友達になろうとも、恋人っていう1歩進んだ関係にさえならなければ、それは彼の自由だというのに――。
なのに……こうして意地を張る自分がいるのは何故なんだろう。
……猛烈に呼ばれてみたい。
私の好きな人に――私の名前を呼んでほしい。
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