第1話「ぼっちと学園一の美少女」

 僕達は高校生だ。


 入学してから1週間という刻が過ぎたが、それでも尚、あいつにあそこまでの信仰度があるというのが最早スゴいと思う。これは正直な感想だ。


「——では、今日の授業はここまで。よく復習しておくように」


 チャイムが教室内に響き渡り、授業中に無かった私語が教室中に当たり狭しと広がる。


 さて、教室内では単なるぼっち扱いの僕に、いつまでも教室にいる権利はない。

 まぁ全て独断ではあるが、さっさとここから退散する他ないのは変わらない。今は昼休みの時間。つまりもうすぐで他クラスから生徒達が『友達』を求めて集ってくる。いわゆるテーマパークを開くことになるだろう。


 そうなれば自然とぼっちに居座る場所は無くなっていく。それが世の摂理。

 いつまでも『ぼっち』の席があると思ったら大間違いだ。


 きっと今使っているこの席も、他の奴らによって借りる名目で奪われていくんだろうしな。


 ……と、いうわけで、いつも通りに部室にでも行くか。それとも静かな中庭がいいか——……。


 すると、席を立ったタイミングでスマホが鳴る。相変わらずのタイミングだな。


 僕のスマホがピロン、と音を鳴らすとか、友達ゼロに近しい僕に出来る芸当ではない。

 唯一の可能性として残されるのは、幼馴染である一之瀬からしかない。


 入学したてで、まだクラスにも馴染めていないので、気の合う友達もいないし。

 そう考えると、入学初日からほぼ初対面の人と仲良く出来る人って、どんなコミュ力してるんだろう……純粋な疑問が残った。


 ぼっちということを考慮すれば、この先出来ない方が僕には正しいのかもな。

 観念してスマホのメッセージを確認すると、そこにはたった一言だけ。


『いつも通り部室にいなさい——12:32』


 要件はこれだけだった。

 ……よしっ、今ならまだ間に合う。無視するか。

 そう思った矢先、又もやあいつから新着メッセージが届いた。

 そこには……、


『逃げようとしないことね。居場所なんてすぐにわかっちゃうけど——12:33』


 と、完全に心理を読まれたと思われる文章が綴られていた。


 っていうか何。心でも読めるのか、あいつ?

 ……それよりもだ。この『居場所なんてすぐにわかる』と書かれているこの一文。これは果たしてどんな解釈を踏まえるのがいいのだろうか。僕はあいつに発信機でも仕掛けられてるのか? ……怖すぎだろおい。


 そう思わされるほどの内容が画面に表示されていた。僕は思わずため息を吐いた。

 ……仕方ない。大人しく部室で待機するとしますか。


 僕は一之瀬の指示通りに部室へ向かおうと、鞄とラノベを数冊机の中から取り出して席を立つ。

 教室を出ようとしたとき、ふと脅迫犯の一之瀬を見つけた。


 数名の女子に囲まれ、その手には紙とシャーペンが握られていることから、おそらく授業の質問を受け答えしているのだろう。数学の先生、結構印象固い感じだし。


 彼女の受け答えは適切なのだろう。頭の良さは、近くにいる僕が1番知っている。その際、やたらと楽しそうな笑みを浮かべているのを見た。


 ……と、ここで気づく。ダメだ、これじゃあどっちがストーカーかわかったもんじゃない。そういった容疑は彼女より、僕に火種が飛んできそうだしな。

 僕はそのまま見なかったフリを通し、教室を後にした。



 ✻



 僕——凪宮晴斗には、いわゆる幼馴染というのが存在する。


 僕と彼女——一之瀬渚は、小さい頃からの幼馴染だ。

 小学校、中学校、ましてや高校までも一緒に進学、進級を過ごしてきた。

 何をするにもいつも一緒。それが当たり前だった。


 そう、僕にとってはこれが当たり前で、それ以上のことには無関心だった。要するに、僕にとって一之瀬とは『幼馴染』という一つの関係での認識しかなかったのだ。


 だが、そんな目で見ていたのは僕1人だけ。

 中学生になるのと同時期の頃から、次第にあいつは他人から好意を向けられることが多くなっていった。


 それは先輩、後輩だけに留まらず、同級生も対象内。

 新入生が入ってくれば、それと同時に「好きです!」「付き合ってください!」と告白をされる……なんてシチュエーション、今まで何回あったかわからない。

 けれどあいつはいつも、


『——好きな人がいるので』


 と言って、断ってきた。


 中にはイケメンな人や可愛いショタ系男子なんかもいたが、挑んだ挑戦者全員がその言葉1つできっぱり断られてきたのだ。

 だからといって、別に気になりはしなかった。あいつだって中学生なわけだし、異性に興味を持ったって不思議ではない歳頃だった。


 まぁそれは僕の中での主観。

 そのため、周りが僕と同じ考えをしているわけではない。


 告白を断られても尚、彼女に踏ん切りが付けられない奴らが次に起こす行動——それは、一之瀬渚の“好きな人探し”だ。

 なんて哀れなのだろう……何回そう思ったことかわからないけれど、とにかく非常に哀しかったことだけは覚えてる。


 結局、その相手はわからずじまい。一之瀬は見張られているなんてことも知らずにいたが、普段通りに過ごし、登下校にも目立った行動や寄り道もしておらず、真っ直ぐ家へと帰宅しているようだったそうだ。


 となると……やはり謎は深まるばかりだ。

 一之瀬渚という“学園一の美少女”から好かれている男——そいつは一体どこの誰なのだ、そう噂が立つようになった。


 しかし僕だけは知っていたことがある。

 どれだけ周りを探ろうとも、あいつの周りには『知り合い』か『それ以外』しかないのだということを——。


 おそらくこれは、僕だけが知っていることで一之瀬は他人には話していないのだろう。

 幼馴染だからこそ気がついたことなのだろう。


 一之瀬の目線の先に、いつも僕という存在がいたこと。これは自意識過剰なんかではない。はっきりとした根拠の元、今の僕だから言えることだ。……出来れば知りたくなかったんだが。


 知らないフリを続けていれば、結果は変わっていたのかもしれない。

 そう、話は4月の始めにまで遡る。

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