隣のキミと過ごす、本当の恋人までの一年間。

四乃森ゆいな

第一章(前期)「幼馴染だからこそ」

第一部

プロローグ「クラス一の美少女は、ぼっちな僕の幼馴染」

 僕には『幼馴染』と呼べる存在がいる。

 そしてそいつは、今やクラスの中でもダントツで人気があり中心人物と成り果てていた。


 従来——幼馴染とえば、才色兼備・容姿端麗・頭脳明晰・スポーツ万能などなど……当てはまる用途は様々だ。


 ライトノベルの主人公を支える絶対的ヒロインと呼べる幼馴染——そしてその役目を担うのは、ほぼ『女子』の方に当てはまる。


 実に反則だ。神様からのご加護を授かる“神の子”のような……どんな強靭な壁をも乗り越える、パーフェクトヒロイン。夢のようでどこか現実味がないそんな奴。

 それが僕の中にある『幼馴染』というヒロインだ。


 この世は“不平等”だとはよく言ったものだ。

 まさにその通りだと、頷く自分が虚しく思えるが——そんなことは今はどうでもいい。


 さて、幼馴染という存在をどうしてここまで僕はいい意味でも悪い意味でも捉えられる解釈であるのか……。そして、幼馴染という存在が『無敵』だと感じるのか。


 そんな考えたこともない王道的存在を、僕は考えたことがある。

 それは、僕はその神様から理不尽にも神の子を授かってしまったからである。


 ——もう1つ、予め言っておきたいことがある。


 “幼馴染は無敵である”

 そんな、誰が決めたのかもわからない、絶対的方式を。



 ✻



 高校に入学して間もなくが過ぎた頃——段々クラス内にはわだかまりと呼べる輪が作られ始めていた。


 そのような輪を、カーストと呼ぶ。


 昔はそれで同じ人民を差別したり、いじめるときの絶対条件として利用されていたらしいが、現時点での法律上では許されていない。


 だがそれは『表』での話。

 本当のカースト制度というのは、生徒達の闇の部分にあるのだと僕は思う。ただの一個人の意見だけどな。


 そしてそのカースト制度と似たような陣は、当然クラス内に作られる。

 例えばあの蟠り。


「ねぇなぎさ! 今日の放課後、一緒にカフェに寄って行かない? 新作のスイーツが入ったんだって!」


「あ、それ聞いたことあるかも。あたしも行ってみたい! どうかな、渚?」


「……そうねぇ。放課後までに決めておくね」


「そっか。一緒に行けたらメールしてね!」


「わかった!」


 ——なんて会話をしている女子群。そしてその中心で会話していた人物こそ、このクラスのトップカースト的存在——一之瀬いちのせ渚。僕のちょっとした知り合いだ。


 ……いや、違うな。それはもう知り合いなんてレベルでは無いと思うが、とりあえずその話は置いておこう。


 一之瀬は肩下まである茶髪の髪に、アイスブルーの透き通った瞳をあわせ持つ特徴的な生徒だ。そして今現在、この学年で“学園一の美少女”と崇められている、僕のような今にも腕に顔を埋めたまま寝ようとしているだらしなさMAXの奴とは比較にならない、絶世の美女だ。


 だがそれとこれとに僕は関係ない。

 彼女との深い縁があるわけでもないし、教室内で立場を超えた和解——なんて現象が起こったわけでもない。


 なので僕が行動する選択肢は1つ。

 眠いので寝ること。それだけだ。


 しかしその瞬間、タイミングを見計らったようにスマホにメッセージが届いた。


「…………………」


 何となく取りたくなかった。

 無論、それは受信先が誰か画面を見ずともわかってしまったから。


 ただ見なかったら見なかったで何か言われそうなため、不本意でスマホを手に取り、メッセージを確認する。


『寝たら許さないから——8:24』


 たった一言。それだけが届いていた。

 まるで僕が寝ようとしてとしていたことを知っていたかのような反応速度。


 そう——相手は気づいている。

 メッセージの主は、先程からこちらにチラチラと視線を送っている、このクラスのトップカースト——一之瀬渚だ。


 先程僕は、一之瀬とは『知り合い』だと言った。それは決して間違いじゃない。

 現にクラス内でも、顔見知りだというのはバレているし、今でも一之瀬にいい寄りたい男子達から『手伝ってくれ!!』と、誘いがあることもう何十件になるだろうか。


 ……こっちの気持ちもみ取って欲しいものだ。こちとら面倒くさいというのに、あの女に関わることは。特に、学校という公共施設において。


 そんなことを考えていると、一之瀬からまたメッセージが届く。


『ちゃんと返信しなさい!——8:25』


 取るのすら面倒くさい。

 だが彼女は僕のことならお見通しらしく、催促メールは足を途絶えなかった。


 眠いんだぞ……こっちは。早く僕を夢の世界に誘わせてくれ。そろそろ瞼が重くなってきた。

 と、そんな内容をメッセージで送ってみる。


『寝かせろ——8:26』


『誰に対しての物言いよ。そんなの許さないに決まってるじゃない——8:26』


『別にお前からの許可なんて要らないだろ——8:27』


『彼女の意見を無視する気?——8:27』


『こんな強欲でわがままな彼女、聞いたことねぇよ——8:28』


 というか、とっとと新規メッセージ送るの止めてもらえない? 僕の安眠を全力で妨害してくるんじゃない。


 僕の知る彼女……一之瀬渚という美少女は、とにかく面倒くさいのだ。


 1度決めたことは何が何でもやり通す。それが一之瀬のポリシーであり、絶対的な理念とも言える。


 そんな理念が、ぼっちの僕にさえ向いているわけなのだが、これには少し訳がある。というのも——彼女が僕に向けてくる理念は、


『つーか、誰がいつ誰のカノジョになったんだよ——8:30』


『いい加減諦めたらどうなの?——8:31』


『ふざけるな。僕にだって譲れない理由ってのがあるんだよ。第一、僕はお前からの告白断ってるはずだろ——8:33』


『まぁ確かにそうだけど。でも、で納得出来るとでも思ったの?——8:33』


『ああ——8:34』


『まったく。素直になったらどうなの? こんなに立派で可愛いになれるんだからさ♪——8;36』


 自画自賛すぎる文章の羅列られつ。そして、絶対曲げない彼女の性格。これを面倒くさいと言わずに何と言うと思う。


 だがしかし、これが事実である以上、受け入れ難い事実であることもまた道理だ。

 はっきりと言おう。僕と一之瀬は、昔からの『幼馴染』だ。


 そしてどういうわけか、一之瀬渚というクラストップカーストの好きな相手は——根暗ぼっちのこの僕……凪宮なぎみや晴斗はるとというわけらしい。

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