白百合2139-PB、進化する
『なんかだいぶ、柔らかい印象になったよね』
それについては、アンドゥを度々訪れる常連客も同様のことを口にしていた。
アンドゥで働き出してからすでに一週間以上。初日から比べるともはや別物と言ってもいいかもしれない。確かに、
確実な<進化>と言えよう。これについてはもちろん第一ラボの方でも確認されていて、エリナ・バーンズらを安堵させていた。
こうして、その日の営業を終えたアンドゥで閉店作業を行っていると、また電話がかかってきて、
「良ちゃん♡」
紫音がやはり甘ったるい声を上げた。だから白百合2139-PB(千堂アリシア)も、
「後は私がしておきますので、どうぞお話をお続けください」
と告げた。
「ありがとう♡」
応える紫音の笑顔も貴重なデータだった。しかも、
「え!? ホント!? よかったあ♡」
良純との会話に戻った紫音がそれこそ飛び上がりそうなほどに体を弾ませた上に声のトーンも驚くほど上がる。その理由も、アリシアには察せられた。通話の内容が聞こえてしまっているのだ。
「明日、帰れることになったんだ」
良純自身もホッとした声の調子でそう言ったのがアリシアの耳に届いていた。
「良ちゃん、明日帰ってくるって!」
紫音が声を上げると、
「それは、よかったですね♡」
アリシアが告げて、
「ホント? よかったあ……!」
厨房の方で作業をしていた桃香も安堵した様子だった。これでようやく、いつもの日常が戻ってくるということだ。
物語的にはこういう時、えてして不幸が襲い掛かったりもするだろうが、特にそんなこともなく、翌日、良純は無事に
「おかえり……おかえり……!」
「ただいま」と口にしながら店に入ってきた彼を見るなり、紫音は感極まって泣き出してしまった。出張そのものはこれまでにもあったものの、今回は<事件絡み>ということもあってそれだけ心配していたのだ。けれど杞憂に終わったことで緊張の糸が切れてしまったのだろう。
<愛する人を前にした喜び>
が、そこには溢れていたのだった。
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