ロボット花嫁、アリシアのブライダル狂騒曲
プロローグ
千堂アリシアは、ロボットである。けれど彼女は、<ただのロボット>ではなかった。<心(のようなもの)>を持ち、様々な経験を重ね、限りなく人間に近いメンタリティを獲得し、けれど同時にロボットでもあるという、おそらくこの世界で唯一の存在となっていた。
それでも、社会は彼女に<心>があるとは認めなかった。そもそも人間自身が<心>というものを明確に定義づけできていないので、彼女が持っているものが果たして<心>なのかどうかを判定しきれないのだ。
けれど彼女は、それについては別に気にしていなかった。
『自分は自分ですから。自身の存在のすべてが機械でできている私が人間と同じ存在であるはずがありません。私はあくまで<千堂アリシアという存在>なのです』
そう考えることができていた。だから、そのこと自体はつらくも悲しくもない。元より『そういうもの』なのだから。
ただ、人間達が互いに傷付け合ったり苦しめ合ったりしているのを見るのがつらいだけだ。
加えて、
とは言えそれも、自分が人間ではない以上、当然と言えば当然である。その一方で、<家族>としては認めてくれているので、まだ納得はできている。
「千堂様、お食事の用意ができました♡」
休日。朝から気合いを入れて食事の用意をした彼女に、
「いつもありがとう。アリシア」
穏やかな笑顔でそう労ってくれる彼に、
「いえ! これも私が好きでしていることですから!」
アリシアも笑顔で応えた。
そうだ。本来なら<当たり前のこと>であっても、彼はきちんと労ってくれる。しかも、アリシアだけでなく、この屋敷で働いている<先輩メイド>とも言うべき<アリシア2305-HHS>に対しても彼はきちんと労う姿勢を見せるのだ。
彼はロボットをロボットとして扱いつつも、大切にしてくれるのである。それがまた嬉しい。
そんな千堂とこうして一緒に暮らせていることが、彼女にとっては何より嬉しかったのだった。
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