千堂アリシア、墓碑の前に立つ
そこに刻まれた名前すら読み取れず、もはや<墓碑>としては機能していない墓石も多い中で、千堂アリシアは迷うことなく、
<タラントゥリバヤ・マナロフ>
とかろうじて読める墓碑の前に立っていた。どんなに破壊されても、墓所にはちゃんと<記録>が残されていて、それにアクセスすれば一目瞭然なのだ。
けれど、タラントゥリバヤのそれも、落書きがされ、大きなハンマーか何かで殴打されたのだろう、元の輪郭が分からなくなるまで破壊されていた。刻まれた名前も、一部は不鮮明になっている。
だが、それがタラントゥリバヤの墓であることは間違いなかった。
だからこそ、アリシアは悲しかった。<ボリショイ・ゴーロト>で彼女の人生のごく一部分とはいえ触れて、その悲しい生い立ちを知り、もしそこに自分がいればと考えると、悔しくて仕方なかった。
タラントゥリバヤの父親が改造したというメイトギアも、彼女の心理状態を察知してフォローしようとしてくれていたのかもしれないが、
<父親とそういう関係にあるロボット>
に気遣われたとして、それが果たして慰めになるだろうか? むしろ感情を拗らせてしまう可能性の方が高くないだろうか?
タラントゥリバヤの家にあったメイトギアの機種については詳細は判明しなかったものの、どうやらあまり質のいいものではなかったようだ。加えて無理な改造が祟って正常な状態ではなかった可能性もある。
それも手伝って、タラントゥリバヤの母親やタラントゥリバヤを追い詰めた可能性も否定はできないだろう。
アリシアはそれも悲しかった。悔しかった。自分と同じロボットが彼女を追い詰めたのだとしたら、情けなくて仕方なかった。
その上で、問う。込み上げてくるものを抑え付けながら。
「タラントゥリバヤさん……貴女はこれで本当に良かったのですか……? こんな、私しか訪れないお墓の下で本当に安らかに眠れるのですか?」
涙こそ流していないが、間違いなく泣いている顔で。
「タラントゥリバヤさん……私には分かりません。私には、笑ってた時の貴女の方がずっと幸せそうに見えました。どうして……どうしてそれを続けなかったんですか…どうして……」
タラントゥリバヤ自身が自らの幸せを本当に願うなら、自分を不幸にしたロボットのことなど忘れて、それこそ
それが悲しくて悲しくて……
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