千堂アリシア、タラントゥリバヤのことも愛したい
なので、人間が本当にAIやロボットというものが人間自身にとってどのような存在であるかを実感できるにはまだ時間が必要なのだろう。
AIやロボットにとっては、それぞれのAIや機体を使い捨てられようが虐げられようが、細胞がそれを苦痛に感じないのと同じで、人間を恨む理由にはなりえないのだ。
もうすでにAiもロボットも<人間という種の一部>なのだから。
千堂アリシアは、改めてその結論に行きついた。すると同時に、自分の存在がやはり<異物>であることもまた、思い知らされてしまう。ロボットでありながら人間のように振る舞えてしまう自分は、人間に牙を剥くような真似をすれば、それこそ制御を失った細胞、つまり、
<悪性新生物>
のようなものになってしまうと。
だからこそ、人間に対する今の気持ちを持ち続けたいと思った。
『だから私は、タラントゥリバヤさんのことも愛したい……!』
一人の部屋で、黒いドレスを見詰めながら、アリシアは思った。その気持ちを失った時に自分は、人間にとってはリスクになってしまうのだと。
けれどその想いは、彼女を苦しめるものではなかった。彼女を追い詰めるものではなかった。むしろ、
『なんだ、そんなことでいいんだ!』
と気持ちが軽くさえなった。なにしろ千堂アリシアは、人間を愛している。リモート・トラベルで見てきた人間達のことも愛している。とても大切にしたいと思えている。その自分の気持ちに正直になればいいだけの話なのだ。
もちろん好ましくない人間だっている。人を人とも思わない人間だっている。誰かを傷付けることこそを自身の権利だと考える人間もいる。けれど、それが人間という生き物の総意ではない。すべての人間がそうではない。その事実も確かめられた。そのためのリモート・トラベルだった。
人間という生き物は、不器用なのだ。誰かを愛しながらもその気持ちを上手く表現できなかったりするだけなのだ。
それこそ、クラヒのように。
行き違いにより時には悲劇も生まれるものの、それが人間という生き物の全体ではないのである。
『タラントゥリバヤさん、だからこそ私は、あなたに会いに行きます。でもあなたは、迷惑がるかもしれませんね。『ロボットなんかに墓参りされたくない』と言って。だけどこれは私自身の気持ちなんです。その気持ちをあなたに届けたいんです。たとえ叱られても。
ごめんなさい。タラントゥリバヤさん』
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