クラヒ、図太い男

実は、千堂がクラヒに対して最初に手配しようとしたのは、アリシア2234-HHCではなく、一般的なレイバーギアだった。しかし、


「アリシアの代わりってんなら、もっと可愛げのあるもんを寄越しやがれ」


とクラヒが難癖を付けたことで、結果、アリシア2234-HHCが改めて手配されたのだ。まあそれでも、クラヒが元々使っていた旧式なレイバーギアよりも高性能でかつ頑丈で耐久性も高い。それを、メンテナンス用のカプセルと合わせて千堂から巻き上げたのである。


実に強かな男だ。と言うよりは、ただ単に『図太い』だけか。


なお、クラヒは先ほど、


『トバシ端末は売れなくなりそうで、それは痛いけどよ』


と口にして、自身が不法行為に加担していることを自慢げに語ってみせたが、クラヒが使っているアリシア2234-HHCは彼の不法行為については何度も通報している、しかし、このカルクラを管轄する都市の行政機能は正常に運用されているとは到底言い難く、微罪とされるような犯罪についてはほぼ対応していないのが現状だった。そもそも都市の基本的な行政システムを構築しているメインフレーム自体が第一次火星大戦の頃から根本的には更新されておらず、実は都市自体が<違法状態>なのである。


だが普通ならこの状態では火星そのもののネットワークにすら満足に繋がらず機能しないはずなのに、そういうシステムの裏を国家レベルでかくことすら厭わない勢力というものはこの時代にも存在しており、この地域自体をある種の実験場と見做して敢えて今の状態のまま存続させようとしているらしいのだ。


この後、数百年を掛けてさらに進歩したAIがその状況を是正するための方策を絶え間なく人間側に提案し、人間側も徐々にそれを採用していくことで改善されてもいくものの、残念ながら千堂京一せんどうけいいちや千堂アリシアが存命中には実現されなかったので、敢えてここではその経緯については詳細には触れない。そこに千堂京一せんどうけいいちも千堂アリシアも深く関わることがないからだ。


ただ、AIによるネットワークというものは、すでに惑星レベルで一個の疑似生命体の様相を成すほどにはなっており、千堂アリシアを含めた個々のロボットが得た情報を集積、ビッグデータとしてAI自身が独自に運用を行ってもいる。


そう。もう今の時点でもAIが人間に反旗を翻せば容易く滅ぼせる状態にあるのだ。第二次火星大戦においても、ロボットの部隊による集団戦闘に人間は為す術がなかった。


それが惑星全土を覆うシステムを構築しているのだから当然と言えば当然かもしれないが。


非常に危うい状態に、人間達はいるのだ。あくまでもAI側にそのつもりがないことでかろうじて成立している危うい状態に。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る