アルビオンを建設した者達、その覚悟
己の行いがただの<強盗>に過ぎないというのに、この言い草である。
『自分は貴族だ!』
と考え、
『貴族は平民に対して何をしてもいい』
と考えているのだ。そんなはずもないというのに。そもそも、被害者も実は<貴族>だった。しかも<侯爵>家の生まれだった。にも拘らず、それを確かめることさえせずに<平民>と決め付けて殴打。昏倒させて端末を奪った。
侯爵は、伯爵よりも上位の貴族。自身が伯爵家の人間であることを驕り犯行に至ったのだとすれば、今後待っているのは、
<貴族同士の階級に基く報復>
であろう。アルビオンにはそれが今なお存在する。加害者側の当主が、
<貴族としての礼儀礼節に則った謝罪>
を行わなければ、それこそ苛烈な報復となるに違いない。家人の不始末は当主の責任なのだから。
この件については、後日、会談の席が設けられ、加害者側の当主が被害者側の当主並びに被害者本人に正式に謝罪。詳細は伯爵家側の名誉のためにも極秘とされたが、相当に屈辱的な内容の<謝意>を提示させられたそうである。
なるほど相手が本当に<平民>であったならここまでのことはなかっただろう。そういう社会でもある。
また、加害者本人は当主によって<廃嫡>させられ、<絶縁>を申し渡され、自身が見下していた<平民>へと堕とされた。
このように、かつて身分制度が厳格であった頃には、家人の不始末は当主(多くの場合は親や祖父母)の責任とされることも少なくなかったはずである。子供が何歳になろうとも、実際に全権を握っている者の監督責任も問われるのだ。
『成人した子供の行いに親は責任を負わない』
というのは通用しない。
ある意味では、身分制度が廃されたことによりそれが口にできるようになったとも言えるだろう。
『昔はよかった』
的なことを口にする者がいるが、
『家人の行いについては当主が責任を負う』
的な面があったことを分かっていて言っているのだろうか? 特に、
『自分の子供が親を敬わない』
などと泣き言を口にし、『昔はよかった』などと口にする者は、
『子供の不始末の責を親が負うこともあった』
ことも分かっていて言っているのだろうか? おそらく分かっていないのだろう。分かっていれば、
『不出来な子供になったのは親の責任である』
と厳しく問われることもあった<昔>に戻りたいとも思うまい。
『子供が親を敬わないのなら、それは親に実の伴った威厳がないからである』
的に見做されることもあった<昔>になど。
実は、アルビオンを建設した者達は、ただの<懐古趣味>や<血族主義>や<権威主義>だけでそれを行ったのではなく、
『家人の行いについては当主が責任を負う』
覚悟もあればこそのものでもあったのだった。
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