言い訳をする動物、人間
<罪を犯す者>
を改めて目の当たりにしてしまい、千堂アリシアは悲しくなった。本当に息をするように容易く罪を犯す者がいる。
それは一体、なぜなのか?
これについては様々な説が唱えられてはいるものの、いまだに完全には解明されていない。
ただ、
『理由さえあれば他者を傷付けていい』
という考え方が大きな影響を与えていることは間違いないとされている。ではなぜ、そのような考えを持つにいたるのか? という部分が詳しく解明されていないのだ。
<親の影響>
<メディアの影響>
<当人の資質>
<人間が元々持っている本能>
等々、原因とされるものは上げられるものの、どれもが決定打とはならず、
『それらの複合的な要因が複雑に絡み合って生じる』
的な、玉虫色の結論となっていた。
ただ、<当人の資質>および<本能>説は決して有力でないとされている。なぜならば、<当人の資質>であるならば<地域性>などというものは有意な数値にはなりえない。何しろ、
建設された当初は特定の国や地域からの移住者が多かった都市であっても、流動的な住人の移動が多く起こり、もはや建設当初の人口構成とは大きく違ってしまっている都市もいくつもあり、そういう都市間においても、<地域差>と称されるような犯罪発生率の偏りが確認されているのだ。
しかも、それまで住んでいた都市では高い遵法精神を発揮していた者が、犯罪発生率の高い都市に移った途端に刑事事件を起こすという事例も確認されている。<個人の資質>だけではこれは説明がつかない。
また、<本能>によるものだとすれば、人間以外の動物は、何らかの明確な理由を意識して攻撃性を発揮しているのだろうか? これも<否>である。
人間の考える<理由>と、人間以外の動物の<行動原理>は明確に別のものであるというのが、現在では定説となっている。
それはなぜか? 話は単純だ。人間以外の動物は、人間が考える<理由>を思考できるだけの知能がないからである。人間以外の動物は、人間のように詭弁を弄して自身を正当化などしない。自身に危険が迫っていると感じれば攻撃により身を守ろうとするし、餌が一つしかなければそれを奪い合って衝突もする。しかし、そんな己の振る舞いを小賢しくも<正当化>などしないのだ。
そんなことするのは人間だけである。
確かに人間以外の動物も、自身の振る舞いを誤魔化そうとするような振る舞いを見せることはある。主人に黙って勝手に餌を食べた犬や猫が『自分は食べてない』と主張するかのような振る舞いを見せる場合もある。
だがそれさえ、人間のように<言い訳>を並べたりはしないだろう?
そこが根本的に違っているのだと言える。
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