千堂アリシア、ハンナの仕事ぶりを見る

『ミセス・ハンナの仕事ぶりを拝見させていただいてよろしいでしょうか?』


ハンナの仕事ぶりに興味が湧いてしまった千堂アリシアは、彼女にそう問い掛けた。するとハンナは、


「千堂アリシア様。私はロボットですので、『ミセス』は必要ありません。ただハンナとお呼びください」


と応えてきた。アリシアとしては、ハウスキーパーに対しては必ず『ミセス』とつけるという知識があったためそう呼んだのだが、なるほど確かにロボットに『ミセス』はおかしいだろう。そしてその上で、ハンナは、


「お客様のご要望には極力応えるように申し付かっております。ですので、お客様が同行いただける範囲であれば、構いません」


とも告げる。それに対して、アリシアも、


「ありがとうございます」


深々と頭を下げた。


こうしてアリシアは、ハンナの働きぶりを見ることとなった。


なお、貴族などの屋敷となると<執事>などもつきもののように思うかもしれないが、アルビオンにおいてメイトギアのハウスキーパーを使っている場合は、それだけで十分、すべての役目がこなせてしまうので、敢えて執事を置いていないところも多かった。


ただし、ロボットであるメイトギアには最終的に人間が行うべき判断はできないので、主人に代わってその<判断>を行うための秘書などを家に置いているところがほとんどでもある。<秘書>の代わりに執事を置いているという家もあるが。


エドモント・ジョージ・フレデリックは著名な医師でもあるため、<電話>がひっきりなしに掛かってくる。それらはすべてハンナが受け、セールスなどの、


『取り次がなくていい』


とエドモントから命じられているものについては、


『間に合っております』


と容赦なく切り、それ以外のものについてはまずは人間である秘書に取り次ぎ、その秘書が改めてエドモントに取り次ぐかどうかを決める。


その電話を、ハンナは屋敷内で運用されているすべてのメイドの管理を行いながら対応していた。当然、あくまで彼女のシステム内で対処しているため、表面上は実に淡々としたものである。


また、現在この屋敷には、<レディースメイド>、<チェインバーメイド>、<キッチンメイド>、<パーラーメイド>、<ランドリーメイド>が、ハンナの管理下で運用されている。


いずれもメイトギアなので、当然、<通信>によってやり取りしており、いちいち言葉で指示を出したり報告したりはしない。外見上は、それぞれが淡々と自身の仕事をこなしているだけであった。


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