間倉井邸、斎場となる

深夜。朝倉病院を発った、好羽このはの遺体を乗せた業者のフローティングバスが、明帆野あけぼのに到着。間倉井まくらい診療所に隣接していた彼女の自宅に運び込まれた。


この時も、遺体を収めた棺を運んだのは喪服に身を包んだメイトギアだったが、遺体を安置する場所を整えたのは人間の職員である。


そして、かねてから、


「自分が死んだ時はここを斎場にしておくれ」


と告げていた部屋が、故人の遺志に従い斎場として設えられていた。建設された当初からそうすることを前提に作られた部屋なので、実にやりやすかったようだ。


道路に接した庭に面し、弔問に訪れる者も楽に出入りできるように考えられている。しかも、これまでにも明帆野あけぼので亡くなった住人の斎場としても何度か使われており、こなれている。


それらの住人の多くは身寄りのない者達であり、好羽このはが親類代わりに対処したものだった。


「安心して死ねないような社会はロクなもんじゃない」


とも、彼女は生前口にしていたという。だから自宅を、身寄りのない者の最後の受け入れ先として使っていたのだ。


そこに、森厳とレティシアの姿があった。結愛ゆな達とは縁も薄いので連れてくることはなかった。見ず知らずの赤の他人の通夜に参加しろというのも、好羽このは自身が、


「見ず知らずの人間に来られても迷惑なだけだよ!」


そんな風に言ってたらしい。


その一方で、明帆野あけぼのの住人達が何人も集まってきていた。その手には、酒やつまみを持って。皆、


『湿っぽいのが嫌いな間倉井まくらい先生のために賑やかに送り出してやろう』


という考えで集まってきたのである。


その中には、辻堂つじどう安吾あんご館雀かんざく立志りっし訓臣のりおみの姿もあった。美月みつきは、まだ秀青しゅうせいが客として残っているので、明帆野あけぼの荘で待機だ。


また、隣接する間倉井まくらい診療所に入院中のニーナも、本人は弔問を希望したが、


「先生からのお達しです。『入院患者はおとなしくしていろ。迷惑だ』とのことですので、外出の許可は出せません」


と、好羽このはから命じられていた亜美が引き留めた。その上で、


「こちらにて、弔意を示していただけます」


病室に備え付けらたパネル型モニターに祭壇が映し出され、その前に焼香が用意された。


間倉井まくらい先生……」


ニーナは、眠っている寛慈かんじを抱いてモニターの前に立ち、


「先生、寛慈です。おかげさまでとても元気です……本当にありがとうございました……」


泣きながら大きく頭を下げた。彼女は焼香のやり方を知らなかったが、それも別に構わない。好羽このは自身が、生前、


「死んだ人間の悼み方なんざ、人それぞれだ。悼みたい奴がやりたいようにやりやすいように悼めばいい」


と言っていたのだった。


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