宿角結愛、夏休みに親戚宅に向かう

宿角すくすみ結愛ゆなは、小学五年生の女の子である。


初期の火星移民の子孫となる宿角家の三女として生まれた彼女は、両親の愛情に包まれて、大変におっとりとした、まるで綿菓子のようにふんわりと広がったプラチナブロンドの髪が印象的な少女だった。


ただし、その特徴的な髪は、実はただの<クセっ毛>で、雨の日などにはさらに膨れ上がって『ボンバヘッ!!』な有様になるのだと言う。


しかし、おっとりした彼女の性格とも相まって、とてもチャーミングに見えるので、誰もネガティブには捉えていないそうだ。


姉二人はすでに成人して家を出ているため、家では両親と彼女の三人暮らしである。しかも姉二人とも年齢が離れていることもあって、生まれた時には、母親が三人いるような状態だったとも。


そう、姉達も、とても穏やかで他者を労わり慈しむことができる人間だったのだ。それもあってか、結愛ゆなは輪をかけて柔和な性格に育った。


が、実を言うと、いつも行動を共にしている<仲良し三人組>の中では、最も<頑固者>なのだとも評されている。柔和であり温和でありつつ、一度『こう』と決めたらテコでも動かないタイプだったりもするのだ。


ニコニコと笑顔で、


「うん。でも、私はこうだから」


と、一歩も引かないのである。


なので、同じ学校の生徒達の一部からは、


<難攻不落の綿飴要塞>


などと呼ばれていたりも。


しかもその気性は、宿角家の人間が代々受け継いできたものでもあるらしい。加えて、彼女の祖父、曾祖父は、地球の日本から派遣され<都市としてのJAPAN-2ジャパンセカンド>に駐留する<戦術自衛軍>に所属し、将官として三度の<火星大戦>をも戦い抜き、部下の大半を死なせずにかつ戦果を挙げたという、<伝説級の人物>だった。


とは言え、祖父も曽祖父も戦後は自身の経歴を一切口外せず、軍からも身を引いて、好々爺としての余生を送ったそうだが。


やはり、多くの人が亡くなった戦争の中では、あまり思い出したくもない事実もあったのだろう。だから周囲も、それについては積極的に触れることもなかった。


ただ今回、宿角すくすみ結愛ゆなは、そんな曽祖父の弟が仲間と共に拓いたという集落へと、夏休みを利用して向かうことになったのだ。


それは、<都市としてのJAPAN-2ジャパンセカンド>から千キロ離れた、一応はJAPAN-2ジャパンセカンドの管理区域とされている湖の中に浮かぶ小さな集落だった。


そこに向かうための<フローティングバス>のキャビン内には、


茅島秀青かやしましゅうせい


と、彼を警護する、


<アリシア2234-HHC(の外見を持つアリシア2234-LMN)>


の姿もあったのだった。


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