閑話休題
<試作品三号>
しかし、こうしておおむね『よかったよかった』で済んだ一連の事件だが、実はその陰で、逮捕された<試作品三号>の扱いについては、ニューオクラホマ行政は対応に苦慮していた。
基本的に、現在の地球や火星の法では、<クローン>は人間として認められていない。とは言え、クローンとして生み出された側には何の罪もないことは明白である。子供が親の勝手でこの世に送り出されるのと同じで、作った側に一方的に責任があるのだ。
さりとて簡単にクローンにまで人権を認めてしまうと、罪に問われることを覚悟でクローンを生み出そうとする者も増えると考えられていた。
特に、愛する者を喪い、それを取り戻したいと願う者ともなれば、それこそ自身は終身刑を受けてでも生きていてくれさえすればと考える者も当然のように出てくるだろうし、実際にこれまでにもそういう者がいて、終身刑を受けて収監中だったりもする。
なお、現在では、生み出されてしまったクローンについては、人権こそ認められないがだからといって殺されるわけでもなく、ある意味では、
<希少な保護動物>
と同じ扱いを受けると言ってもいいだろう。
『保護はされるが、あくまで人間としては扱われない』
という。
このことついては、将来的に、ある一定の手順を踏んで、
『死んだ人間が生き返った』
的な扱いをするのではなくあくまで、<新生児>と同じ扱いで新たに市民権が与えられる形に改めらえていくのだが、これはずっと先のことなのでこの時代では実現されなかった。
また、完全に<無辜の者>としてまっさらな状態で生を受けていたのであればまだしも、今回の<試作品三号>のように、オリジナルの方の人格データをインストールされている状態についてはさらに扱いが難しくなるのだ。
いくら人格や記憶が移植されていようとも、クローンは決して<本人>ではない。<試作品三号>でさえ完全にクグリの人格が再現されていないことからも分かるように、少なくとも今の時点では、<人格や記憶のインストール>は決して完全な技術ではない。となれば、<試作品三号>=<クグリ>とはなりえない。
が、<試作品三号>に規範意識がまったく見られないように、オリジナルの人格や気性の影響は少なからず受けるのも事実のようだ。
それらの事実を勘案し、火星政府(建前上、火星全体が<一つの国家>とはされているので、全体を統治する政府自体は存在する。もっとも、二十一世紀頃の<国連>的な立場でしかないのも事実だが)は、<試作品三号>の存在を完全に秘匿し、今後のための貴重なサンプルとして扱うことを決定したのだった。
なので、千堂アリシアと<試作品三号>が邂逅したという事実そのものが、なかったことにされたのである。
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