試作品三号、とんでもない相手
自身の指数本を引き換えに放った<試作品三号>のハンドカノンの弾丸が、ついに千堂アリシアの胸を捉えた。ロボットの頭脳であり心臓とも言えるAIのメインフレームが納められた胸部をだ。
しかしそれは、彼女の<装甲スキン>を破りはしたものの、そこまでだった、装甲スキンを破り、メインフレームが納められた頑強な<ケース>をわずかに変形させたところで止まっていたのである。
その弾丸が通った線上にあったのはアリシア自身の右の掌だった。掌を間に挟むことで威力を奪ったのだ。掌側と手の甲側と胸部、<三重の装甲スキン>により自身を守ったということだ。
もっとも、掌内の骨格に当たってくれていればそこでも威力を奪うことができて、胸部の装甲スキン自体破られることもなかったかもしれないが、そこまで幸運には恵まれなかったとも言えるだろうか。
それでも、致命的なダメージは防ぎ、しかもハンドカノンの弾丸を尽きさせ、<試作品三号>の右手指三本に重大なダメージを負わせることができた時点で、それまでの均衡は完全に崩れ去っていた。
なのに、<試作品三号>は、ハンドカノンを失い右手指三本が使い物にならなくなっても、まったく意に介している様子もなかった。右手さえそのまま掌打に用い、少しも闘志が衰えない。
クグリも、千発以上放たれたランドギアのチェーンガンの弾丸のうちのたった一発ではあっても、腹にそれを受けて腸がぐちゃぐちゃに引き裂かれたというのにまるで意に介さず戦い続けたくらいだから、別におかしくないのかもしれない。
とは言え、千堂アリシアに致命的なダメージを負わせる手立ては失われてしまったことで、事実上、勝負は決しただろう。
実際、直後そこに突入してきたサーペントの隊員達からテイザー銃の射撃を受けて、床に倒れ伏したのである。ただ、それまでに五発ものテイザー銃のスタン弾を受けてようやくだったのだが。
「……!」
「……!」
千堂アリシアにも聞き取れなかったもののサーペントの隊員達が何らかのやり取りをしてた様子も、明らかに戸惑った様子であった。普通の人間なら一発受けただけでも危険だし、二発も受ければ九十パーセント以上の確率で心室細動を引き起こすというスタン弾を五発も浴びてなお意識さえ失っていなかったのだから。
「頭は動いてんのに体が動かねえってのは、悔しいもんだな……」
<試作品三号>は、拘束を受けながらもそんなことを口にしてさえいた。
まったくもってとんでもない相手だったと言えるだろう。
クグリの件さえなければ。
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