岩丸ゆかり、兄を想う
こうして、状況が刻一刻と推移する中、岩丸ゆかりは、メイトギアらしき何者かに助け出された後、言われたとおりにビルの屋上に伏せておとなしく救助を待った。兄・
そして、
『お兄ちゃん…心配してるかな……』
端末から非常信号を発信できたので状況は察してもらえてるだろうとは考えつつも、休暇中の兄では自分を助けにはこられないだろうとは考えていた。とは言え、その非常信号を受信したというメイトギアに助けてもらえたので、非常信号自体は十分に役には立っている。
後は、救助を待つだけだ。
しかし、そんな彼女の姿を、見ている者がいた。
ドローンだ。サーペントと共に配置されたドローンが、屋上にいる彼女の姿を捉えたのである。そして、ドローンを通して、指揮所にもその映像は送られていた。
「非常信号を発信した観光客か」
彼女が非常信号を発信したことはすでに把握されていて、<要救助者>を示すタグが映像には付けられていた。が、残念ながら彼女の救助はサーペントの作戦が一区切りついてからということにされている。サーペントの任務はあくまで<容疑者の拘束>であり、要救助者の救助は含まれていないのだ。作戦行動中に容疑者が負傷すればそれについては救急対応も行うものの、任務外のことについては一切が埒外とされている。
救急や所轄の警官を向かわせるのは、まだ先だ。
だが、その時、ドローンが捉えている映像に、<要警戒>の赤いタグが表示された。もちろん岩丸ゆかりにではなく、彼女が隠れているビルの非常階段に何者かの影を捉えたのだ。
ただそれは、人間の肉眼ではすぐには認識できなかった。非常に高い隠密性が窺える。あらゆる波長の光を捉えることができる高性能軍用ドローンのカメラでなければ探知できなかっただろう。
その<何者か>は、非常に慎重に用心深くそれでいて迅速に、非常階段を上へ上へと移動していた。
「まずいな。要救助者と鉢合わせる可能性がある」
指揮官はそう判断した。ただ救助を待つだけなら後回しでもよかったのだが、<要警戒>タグが付けられた何者かが接近しているとなれば話は違ってくる。
例の端末の反応こそないものの、明らかに只者ではない動き。<竜の刺青の男>を拘束した<民間の協力者>の可能性もあるとは考えたが、それが確定していない以上、まずは拘束した上で確認しなければいけない。
万が一があってはいけないのだから。
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