一般車両、<協力者>となる
夜のニューオクラホマの街を、千堂アリシアはゆるゆると散策していた。人間達の活動が放つ喧騒も、彼女にとっては不思議と心地好い。人間達がそこにいるという実感だからだろうか。
しかしその時、彼女の耳に、「ガシャン!」という、あまり好ましくない種類の音が届いてくる。何かが硬い地面に落ちて散らばり、しかも一部が破損する音だ。
誰かが商品が入った荷物でも落としたのかもしれない。配送業者がうっかり落として商品を破損したのだとすれば、少なからず叱責されるだろう。場合によっては賠償責任さえ問われるかもしれない。
『ああ……』
人間に幸せを願うアリシアとしては、悲しい出来事と言えた。
が、音がした方に意識を向けると、何か様子がおかしい。
「!?」
アリシアは、ためらうことなくそちらへ歩き出していたのだった。
それから数分後、岩丸ゆかりを攫った男達が乗る自動車に<何か>が飛び乗り、窓を突き破って車内に手を伸ばしてきた。だが、男達の方も、身を躱し、しかも運転していた男が咄嗟に急ハンドルを切って車体を大きく揺らした。
下手をすると横転しそうなそれだったが、運転していた男の技能は確かなものだったらしくひどく挙動が乱れてもたちまち復帰させてみせる。そして、自動車の上に落ちてきた<何か>を振り落とし、走行を続ける。
この時、周囲を走っていた自動車も、AIが突然の出来事にも反応。さらに周囲の自動車のAIと瞬時に連携して躱してみせて、事故には至らなかった。同時に、その自動車に搭載されているAIがこの異常事態にも拘らず平常運転を行っているという信号しか発していなかったため、それを他の正常なAIらが検出、
<不正な改造車両>
と認識して一斉に<通報>した。
もっとも、それ自体は、旧式な車両にはよく見られる<故障>の場合もあるので、普段は警察も情報だけ集めて、後日、所有者のところに警官を派遣して事情を聴くという程度の対応が一般的だった。
これより以前に警備のレイバーギアが当該車両にマーキングを行っていなければ。
「イースト七番通りから逃走した不審車両と一致! 緊急配備!」
警察の指令所がそう判断し、この瞬間、ニューオクラホマを走っている一般車両すべてが、当該車両の情報を随時警察へと送信する<協力者>となった。
数秒後には所有者について『該当なし』と判明。こちらも複数の車両の部品を持ち寄ってでっち上げられた<飛ばし車両>であると推測された。
その種の車両が運用されていること自体も珍しくないものの、当然、それは犯罪行為である。
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