千堂アリシア、ネコ公園に向かう

『私達はしばらくここで余暇を楽しんでから帰ります』


千堂が刑事達にそう告げると、アリシアの顔がぱあっと明るくなった。コデットとの時間を作ってくれたのだと悟ったからだ。


そこでアリシアはコデット達のところに駆け寄って、改めて頭を下げる。


「もう少しだけお話してていいそうです」


するとコデットも、


「やったあ♡」


満面の笑顔になる。


「じゃあ、ネコ公園にいこ!」


そう言って駆け出した。


「あ、こら、待ちなさいよ!」


かほりが慌ててコデットを追い、


「あはは♡」


結愛ゆなが嬉しそうにそれに続いた。


もちろん、アリシアも三人に倣う。千堂はゆっくりと歩いてネコ公園へと向かった。


そうして、コデットとかほりと結愛ゆなとアリシアが到着すると、そこにはやはり何匹もの猫が寛いでいた。その中に、滑り台の上に陣取ったナニーニの姿も見える。


「すごいですね」


猫に囲まれ、アリシアは素直にそう言った。


「よ~しよしよしよし♡」


「♡」


「いいこ、いいこ♡」


コデットとかほりと結愛ゆなも、それぞれ猫と触れ合う。アリシアも、滑り台の上のナニーニにそっと手を伸ばした。


『逃げるかな…?』


と覚悟したものの、ふてぶてしい様子で彼女を睨みつけながらも、ナニーニは逃げ出したりはしなかった。


そっと撫でると、詳細なバイタルサインが届いてくる。


それらはやはり、高齢の猫であることを裏付けるものだった。命の期限が残り少ないことを報せるものでありつつ、けれど、その範囲内であれば<健康>とも言えるのが改めて分かる。


おそらく、ジョン・牧紫栗まきしぐりによって<ナニーニ>と呼ばれるようになったであろう地域猫。他にも<ブサ>と呼ばれたり、様々な名で呼ばれていたのだろうが、きっと、ナニーニ自身にとってはそれほど重要ではないに違いない。ただ、<ナニーニ>と呼ばれること自体は不快ではないようだ。


「ナニーニ。今日はあなたのおかげで助かりました。ありがとうございました」


きっとナニーニしか聞こえない小さな声で、アリシアは礼を言った。するとナニーニが耳を動かす。応えているのだろうか。


それがどうかは分からないものの、機嫌は決して悪くない。なにしろ、ゴロゴロゴロと喉も鳴らしているのだから。


なのに、その場にいた猫達に緊張が走り、ナニーニもサッと身構えた。


「あ、ブータ!」


コデットが声を上げたとおり、<ブータ>と呼ばれる巨大猫が悠々と道路を歩いてきた。なんという貫禄。公園にいた猫達が次々と逃げ始める。


けれど、ナニーニは逃げなかった。それどころか、滑り台をトトトンと駆け下りて、公園に入ってきたブータの前に立ちはだかったのだった。


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