桜井コデット、探偵の仕事の役に立つ

アリシアの方を振り返り、尻尾をピンと立てて先を手招きするように動かし、『んあ~っ!』と鳴いたナニーニのそれが何を意味するものであるのかは、分からない。


けれど、コデットは、


「おばあちゃん、ナニーニが探偵さん達にもついて来いって。いいよね?」


まるでナニーニの言っていることが分かるかのようにそう告げた。すると、大家の女性も、あれほど感情を昂らせていたにも関わらず、


「ん……ああ、まあ、仕方ないね……」


完全に毒気を抜かれたように、けれどさすがにバツが悪そうに視線を逸らしつつ応えた。


大家の女性としても、息子の件については今なお強い憤りを持っていても、けれど、幼いコデットの前で口汚く罵るような真似まではしたくないのかもしれない。


そんな女性に、アリシアは、


「ありがとうございます!」


深々と頭を下げ、感謝の意を示した。


「ご協力、ありがとうございます」


刑事達と千堂も、それに倣って丁寧に頭を下げる。


「……ふん……っ!」


コデットの手前、抑えはしたものの、警察に対する怒りそのものは決して収まっていないのだろう。女性は不愉快そうに顔をしかめたまま背を向けてしまった。


刑事達は女性に対して何度も頭を下げつつ、<もてぎ荘>の玄関へと入っていく。そこはすぐに靴を脱いで上がる形になっていて、当然、靴を脱いで上がった。


それを確かめつつ、アリシアを千堂は再度女性に頭を下げ、さらにコデットへも頭を下げた。


「えへへ♡」


コデットが、


『探偵さんのお仕事の役に立てた!』


とばかりに自慢げに鼻をこすりながら笑顔になったのを見届け、アリシアと千堂も、もてぎ荘へと上がった。


そこは、いかにも古めかしい<木造の下宿>然とした様子だった。ただし、それはあくまで<演出>であり、築年数はそれなりにいっているものの、建築に用いられた技術は当然、建てられた当時の最新のものなので、造りはしっかりしている。床が腐って抜けたりということもないし、ギシギシとひどく軋んだりもしない。


そして、廊下には、それぞれの部屋へのドアが、四つ、並んでいた。廊下の突き当りにもドアがあるが、それは共同のトイレと共同の浴室のドアであることは、間取りを確認してある刑事達には分かっている。けれど、ナニーニは、一階には目もくれず、もてぎ荘の<玄関>のすぐ脇にある階段を、のしのしと大儀そうに上っていき、刑事達も迷うことなくそれに続く。目的の部屋は二階なのだ。


こうして二階に辿り着くと、そこにも、廊下に並んだ四つのドアがあり、突き当りにはやはりドアがあるが、こちらは共同トイレのみであった。


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