千堂アリシア、再会する

どうするべきか結論が出ないまま時間だけが過ぎていき、アリシアは焦れるというよりは悲しい気持ちになっていた。


『本当に、この世というのはどうしてこうままならないのでしょうか……』


そんなことも思ってしまう。思ってしまうものの、だからといってどうすればいいのかも分からない。千堂が隣にいてくれなければ、その場にうずくまってしまっていたかもしれない。


それくらいの気持ちだった。でも、その時、


「あれ? 探偵さん……?」


アリシアのセンサーに届いてくる、聞き覚えのある声。


ハッと振り向いたその視線の先には、ランドセルを背負った少女。


「コデットさん?」


そう。コデットだった。桜井コデットが、そこに立っていたのである。どうやら、学校からの帰りのようだ。なお、今の学校は、ランドセルを使用するようには言われないものの、学校から提示さえている<使っていいカバン>の一覧にランドセルも含まれることから、敢えてそれを選ぶ世帯も少なくなかった。なんだかんだ言っても丈夫で機能も充実しているからだろう。そして、流行にも左右されにくい。何より、子供自身が、入学の際に『ランドセルがいい!』と希望することも多いという。


が、それは余談なので脇に置くとして、ランドセルを背負ったコデットの姿は、実に愛らしかった。ロボットであるアリシアでさえ、胸が『キュンッ♡』とするような気分になってしまう程度には。ロボットなので本当に胸がキュンッとなるわけではないものの、彼女のデータにある<人間の反応>が思い起こされてそう錯覚させられてしまうのだろう。なるほど、ランドセルの人気が衰えないわけである。


と、それも脇において、


「やっぱり探偵さんだ! こんにちは」


コデットが嬉しそうに笑顔で挨拶してくる。


「こんにちは、コデットさん!」


アリシアも思わず笑顔になる。


千堂アリシアと同じ姿をしたメイトギアそのものは別に珍しくもないものの、実はコデットも彼女と同じ姿をしたメイトギアを見掛けるとついそう思ってしまったものの、何気ない仕草から今回は間違いないと感じて、声を掛けてしまったのだった。


「何してんの? もしかしてまた探偵のお仕事?」


コデットが興味深そうにそう尋ねてくる。そして、


「あ、そっちの人が今回の依頼人?」


千堂京一せんどうけいいちの方を見て言った。


「ああ、いえいえ、この方は私のご主人様です」


アリシアも笑顔で応える。すると千堂も事情を察して、


「初めまして、桜井さん。私が彼女のオーナーです」


柔和な笑みを浮かべながら会釈したのだった。


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