千堂京一、刑事に問い掛ける

今ではロボットは、主人に盲目的に従うだけの存在ではなくなっている。かつて、ロボットがそれこそ主人の命令であれば人間でさえ攻撃できたことで、戦争だけでなくテロにも利用されるという事態が多発したために、改められるようになっていったのだ。


たとえ主人の命令であろうとも、広く一般に普及しているタイプのロボットは、決して人間を傷付けようとはしない。できない。一部の、軍や警察で使われるものや、要人警護仕様のメイトギアなどという例外を除いて。その例外的なロボットでさえ、平時は一般仕様のロボットと同じく、人間を傷付けるようなことはできない。


強盗などが発生した時にも、あくまで身を挺して人間を守るだけで、加害者を攻撃はしない。百を超える厳密な<規定>が設定されていて、それに適合する場合のみ、<緊急の非常措置>として殺傷が可能になるというだけに過ぎないのだ。


由紀子ゆきねが千堂に謝罪したのも、それこそが主人の<利>になると考えてのことだった。


客商売なのだから、仮にも客に対してあのような態度は、この店を経営者でもある主人の利にはならないと、ロボットは考える。


それに対して、千堂は、


「ああ、いい。私は気にしていない。そう主人に伝えてほしい」


と告げて、自身の分の会計を済ませて、アリシアを伴い店を出た。それから、


「先ほどの店員の女性がおっしゃっていた<持木もてきばあちゃん>は、<もてぎ荘>の経営者の方でしょうか? その方の息子さんに何かがあって、あの方は特に警察を敵視してらっしゃると?」


やはり会計を終えてそそくさと店を出てきた刑事に問い掛ける。もっとも、実際に答えてもらえると思ってのものではなかったが。


そして刑事も、


「個人のプライバシーにかかわることですのであまり詳細にはお答えできませんが……」


と前置きした上で、


「実は、あの持木もてきさんのご子息にある容疑が掛けられまして、我々警察が逮捕・勾留したことがあったんです。ですがそれは、悪意をもって陥れられたものだったんです。ですが、物証こそ乏しかったものの状況証拠としては十分で、確信をもって逮捕・起訴に踏み切りました。しかしそれは、結果としては誤りだった。後に彼を陥れようとした者達の中から内部告発があり、彼の潔白は証明されることになりました。


とは言え、マスコミの報道も完全に彼を<犯人>と断定する論調で、世間も完全に彼を<犯人>と捉え、ネットなどには、彼自身の個人情報だけでなく、彼の婚約者の女性とその家族の個人情報まで曝されたんです。そして婚約者の女性は、それを苦に自殺してしまったと……」


語ったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る