千堂アリシア、桜井コデットの期待に応える
「ぷはーっ!」
瓶入りのオレンジジュースを飲み干したコデットが、満足気に息を吐いた。
とはいえそれも、すごく芝居じみていて、そういう演技・演出だというのが分かってしまう。
けれどそんなのは些細な問題だった。自身の満足感を表現するために、敢えて大袈裟に振る舞っているのだ。これまた人間ならではのものだと思われる。
しかしそんな姿が、また、愛らしい。
コデットを見つめるアリシアの頬も、緩んでしまう。するとアリシアの方を見たコデットが、
「探偵偵さんは喉とか乾かないの?」
と尋ねてきた。けれどロボットであるアリシアの喉が乾くことは当然なく、
「はい大丈夫です」
と応える。そんな彼女に、
「そっかぁ……」
とは応じながらもコデットが少し寂しそうな表情になり、それを見たアリシアは、
「でも少し喉が渇いたかもしれません」
そう口にして、
「では、私にもオレンジジュースを」
と言いながら電子マネー用のカードを、店主の女性に差し出した。
これにはさすがに女性も、
「大丈夫かい?」
と尋ねたものの、アリシアは、
「はい大丈夫です」
と明確に笑顔で応えた。というのも、今のアリシアには、オプションで用意された<毒見機能>が装備されており、人間と同じように飲食を行うことができるのだ。
とはいえ、食品からエネルギーを取り出せるわけではないので、あくまで人間を守るための毒見の機能でしかなく、口にしたものはバックに詰められてメンテナンスハッチから取り出す形になるのだ。けれど今はコデットのささやかな期待に応えようと、アリシアは、受け取ったオレンジジュースを彼女と同じようにゴクゴクと喉を鳴らしながら一気に飲み干してみせた。そしてやはり同じように、
「ぷはーっ!」
と、大きく息を吐く。
実はこの息自体、アリシアにとっては必須のものではなく、純粋に<機能>として、人間と同様の形で発声するために空気を取り入れているだけに過ぎない。それでも、そんなアリシアの姿を見たコデットは、
「いい飲みっぶりですねー!」
嬉しそうに笑顔で声を上げた。これで満足してもらえるなら、アリシアも本望だった。
なおアリシアが飲んだオレンジジュースは、さすがに彼女の機能的に利用されるものではなく、後で廃棄されることになるものの、現在の火星では非常に高度なリサイクル技術が確立されており、下水に含まれる汚泥すら資源として確実に再利用される。
火星開発当初などは、それこそあらゆる資源に余裕がない状態で生きていかなければいけなかったのだから、その中でいかに快適に過ごすかということで求められた技術なのだった。
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