千堂アリシア、猫にまみれる

猫達に囲まれ、アリシアはとても穏やかな気分を味わっていた。


『可愛い……♡』


人間であるコデットが猫によって癒されるというのは、アニマルセラピーという手法があることからも何も不思議でないのはわかる。


けれど何故か、ロボットであるはずの自分までがそのような気分になれるというのは、合理的な説明ができなかった。


けれど、きっと、そういうことじゃないのだろう。理屈ではないのだ。いや、いずれはこれも、理論的に解き明かされることになるかもしれない。けれど今の段階では、そのメカニズムは完全には明かされていない。明かされてはいないものの、実際に効果があるのだから、ただ享受すればいいのだろう。


アリシアも、何匹もの猫に囲まれて、たまらない幸福感の中にいた。とても不思議で、とてもあたたかい。単純な温度でいえば、実にわずかな違いでしかない。まったくもって劇的な差違でもない。しかし数値以上に『あたたかい』のだ。


気持ちが和らぐのだ。


ロボットである自分が、その実感を得ている。これは大変なことなのかもしれない。


それを噛み締めつつ、アリシアは、コデットとともに、この一時ひとときを過ごす。決して時間的な余裕は十分ではないものの、だからといってコデットを急かすこともしない。時間がないというのは、あくまでアリシアの側の都合でしかない。コデットにとっては、何の関係もない話である。それに、余裕が全くないというわけでもない。時間のやりくりはまだまだできる。ならばこのあたたかな時間を楽しんでも、それ自体が、こういう<お出掛け>の醍醐味というものでもあると言えるのではないだろうか。


そうして、約十五分、それを堪能した。すると、コデットの方が、


「こんなことしてる場合じゃなかった!!」


我に返ったように声を上げて、それに驚いたのか、猫達がパッと散っていった。するとアリシアも気を取り直し、


「ナニーニはいませんでしたね」


と、笑顔を。


そんな彼女に、コデットも、


「いないんなら次だ!」


声を上げて、正面を指差す。そして、


「ちょっと寄り道したけど、ナニーニの散歩のルートをたどる! ホシの足取りを追う!」


まるで刑事ドラマのような台詞を口にしつつ、指差した方向へと走り出した。それは、住宅と住宅の間にできた、もはや路地とさえ言えない、ただの<隙間>だった。


コレットが最初に覗き込んでいたそれと同じような。コデットはコデットなりに、ナニーニの散歩ルートをたどって、ナニーニの行方を追おうとしてたのだろう。


利口な子である。


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