千堂アリシア、新京区に到着する

こうしてアリシアは、迎えのハイヤーに乗り込み、駅へと向かった。そこから電車に乗り、新京区へと向かう。


<新京区>は、京都をイメージして都市造りが行われた区画で、観光を中心とした商業エリアでもある。


とは言え、千堂邸の最寄り駅からは電車で三十分程度の距離なため、出掛けること自体が苦になるような場所でもない。<お遣い>にも程好い距離と言えるだろうか。


メイトギアであるアリシアにとっては、路線図なども完全にデータとして保有しており、たとえ自分が持っていないデータであってもネットワークなどを通じて簡単に入手できるため、その辺りで戸惑うことはない。


最適なルートを最短で辿れるのだ。


ただし、これはあくまで<試験>なので、日常的に起こりうるいくつかのトラブルが再現されており、それに適切に対処できるかどうかも評価項目に含まれている。


実は、ここに来るまでにも、高齢者に道を訊かれたり、迷子の子供を保護したり、等々の細かいトラブルに遭遇してきた。


それらはもちろん、試験のために用意されたものである。道を訊いてきた高齢者(評価試験を主に担当するエキストラ)には丁寧に道を教えつつ、警備用のレイバーギア(人間そっくりに作られたメイトギアとは異なり、一見しただけでロボットと分かる無骨なデザインを施された、警備や重作業用のロボット)に通信で連絡を取り道案内をしてもらったり、迷子の子供|(こちらもやはりエキストラ)については、保護しつつやはり警備用のレイバーギアを呼んで保護してもらおうとしたものの子供が、


「こわい~!」


とレイバーギアに怯えるので、婦人警官が到着するまで待ったりと、アリシアは臨機応変に対応してみせた。


ちなみに、これらをこなすために、ハイヤーは、車両の故障を理由に、彼女を駅から数百メートル離れたところで降ろしている。


無論、それに対しても、アリシアは憤ることもなくハイヤーを降り、徒歩で駅に向かった。


なお、緊急の事態を除き、メイトギアを含むロボットは、歩道を走ることは禁止されている。自転車のような<軽車両>に準じた扱いになるからだ。どうしても走らないといけない時には緊急信号を発信しつつ車道を走ることになる。


まあそれは余談として、アリシアは、若干の遅れもありつつ、許容範囲内のそれにとどまっていた。


彼女は非常に優秀だった。


新京区に到着してからも、いきなり強盗事件に巻き込まれたりもしたが。


駅前の銀行から飛び出してきた強盗に、人質に取られたのだ。


とは言えそれは、銀行強盗を想定した<訓練>である。実は、ちょうどそれが予定されていたので、彼女の試験に組み込まれたという。


これも、常に緻密に情報をやり取りしているこの社会ならではことだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る