勇者アリシア、フードを目深に被った何かと対峙する

<フードを目深に被った何か>は、まったく手加減なく放たれたアリシアの蹴りを難なく受け止め、逆に振り回してみせた。


それだけでもう、そいつが<人間>などでないことが分かってしまう。


足を掴まれ振り回され地面に叩きつけられそうになったアリシアだったものの、彼女も易々とはやられない。


両手を付いて衝撃を受け止め、そいつの手をもう片方の足で蹴り、緩んだ瞬間に脱出。まるでクモのように低く両手両足を広げて地面に這い、ねめ上げる。


すると、アリシアの目には、フードの奥まで見通せてしまった。まるで石の彫刻のような顔までが。


いや、『石の彫刻のような』ではなく、実際に石の彫刻と言ってもいいようなものだったのだが。


『ゴーレム……』


そう。それは<ゴーレム>だった。しかし、ラウルが使ったそれとは違い、あらかじめ入念な準備の上で用意された、


<自律型のゴーレム>


だった。


十分な魔力が充填され、いわばバッテリー駆動のロボットのように、貯えられた魔力が尽きるまで与えられた命令を実行し続けるタイプのゴーレムだ。


なのでこの場合、


『村人の命令に従い、敵を排除せよ』


とでも命じられていた感じか。


ラウルが使ったゴーレムは、その場で作り上げた即席のものだったので常にラウルが操らなければいけなかった上、魔力も注ぎ続けなければいけなかったことで<粗>も目立つものだったものの、今回のこれは、おそらく、ジュゼ=ファートが十分に集中して作り込んでいたのだろう。動きも正確で、何より力が濃密で強靭だ。


さりとて、アリシアも怯まない。


バンッと両手両足で地面を弾き、その反動で宙を舞う。と同時に剣を抜いてゴーレムに叩きつけた。


こちらも十分に魔力を込めた一撃だった。だから普通なら容易く折れてしまうところが、フードを切り裂き、ゴーレムの頭の半分まで切り裂く。


実はこれだけでもとんでもないことだった。普通はこの一合で剣が折れてしまうはずだったのだから。


とは言え、アリシアの方も、今回ばかりは出し惜しみするつもりはなかった。何しろこの後は、<例のイベント>に進む予定なので、剣は基本的に必要なくなるからだ。だからここで使い切っても構わない。


が、ゴーレムの方も一筋縄ではいかない。自身の頭を半分まで切り裂いた剣をそのまま掴み、強引に引き抜いた。そしてそのまま、再びアリシアを振り回す。


自律型のゴーレムは、本来、制御のための術式が頭部に埋め込まれているため、それを、魔力を込めた武器で破壊すれば崩壊するはずだった。


なのに、そのゴーレムは平然としている。


術式が破壊できなかったのだ。


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