勇者アリシア、ゴーディンに告げる
ゴーディンは自身の死を覚悟して走馬灯を見たが、アリシアは当然、殺すつもりなどなかった。
ロボットは、相手が犯罪者であったとしても原則として殺さない。戦闘用のロボットや要人警護仕様のメイトギアが戦闘モードの際に相手を人間を殺傷できるのは、<例外>として設定された項目に当てはまる場合だけだ。それを厳しく設定しておかないと、ロボット自体が容易く<大量殺戮兵器>となり、テロなどが実行しやすくなってしまう。
テロリストに利用されたりしないためにも、厳格な規定が求められるのだ。テロリストの攻撃から身を守るのは、ロボットが身を挺して行う。
法に従って人間を裁くのは人間の役目だ。ロボットの役目ではない。
だからアリシアは、主人である
ゴーディンは人間ではないものの、少なくとも<ORE-TUEEE!>内では人間として設定されているので、アリシアとしては殺したくはなかった。
ただのアトラクション内のキャラクターだと分かっていても。
戦斧の刃先がゴーディンの頭をかすめ、柄の部分が肩口を打ち据える。それだけでも立っていられずに、どどお!と地面に倒れ伏した。普通は人間ならこんなものだ。そして重量数十キロの戦斧が路面の一部に突き刺さり、ゴーディンを抑え込むような形になる。
まあ、本人がその気になればこの程度なら何とでもなるのだろうが。
とは言え、恐怖に心折られた彼にそれはもう無理な相談だった。
地面に横たわる彼を見下ろしながら、アリシアは言う。
「これだけの醜態を晒せば、あなたはもう組織の中でこれまでの立場は維持できなくなるでしょう。それによって粛清されるとしても、それはあなた自身がその生き方を選択した結果です。あなたが属した組織のルールに則って処されてください……」
きっぱりと言いのけた彼女の
<環境>が人間を狂わせることは、発達したAIが実際に人間の姿を記録し続けてデータとして蓄積したことで、<単なる統計上の数値>としてではなく紛れもない現実の事例が証明してみせた。人間はえてして、
『自分の側に原因があるとは考えたくない』
生き物ではあるが、AIにはそれがない。冷徹なまでに客観的事実は客観的事実として淡々と捉える。
『完全に本人の資質だけが原因でその結果に至った事例はない』
と。
火星史に残る<最凶最悪のテロリスト>とさえ称される<クグリ>でさえ、環境要因次第では、逆に、<火星史に残る英雄>になれた可能性があったことが、<高度シミュレータ>によって解析されたのである。
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