コデット、蛇の道は蛇

店の位置口付近で番をしていた巨漢の男を片手一本で振り回すアリシアに、周囲は軽いパニック状態だった。


振り回されている男ごと切りつけようと剣を振りかざしても、男の足や体が当たって弾かれてしまう。


それどころか剣やナイフを落としてしまう者まで出る始末。


するとアリシアは男を振り回しながら落ちた剣やナイフを次々と踏み付けて折っていく。


もはや巨大な独楽こまが周囲を蹂躙しているかのような光景だった。




そうしてアリシアが大立ち回りを繰り広げている一方、宿に戻ったコデットは、落ち込んだ様子のナニーニに、


「おい、落ち込んでる暇はないぞ。すぐに宿を出る…!」


囁くようにして声を掛けた。


「え…? 何言ってんの…?」


コデットの提案の意味が理解できずに戸惑う彼女に、


「バカヤロウ! 宿に戻るところをつけられていたのに気付かなかったのかよ! このために別に宿を取ってあるんだ! じきに奴らが来る! その前にズラかるぞ!!」


コデットは空いていた隣の部屋に入り込んでその窓から外を確認。不審な男が、アリシア達が泊まるはずの部屋を見上げているのを確認する。人数は一人。たぶん、本当は他にも一人二人いたんだろうが、仲間を呼びに行っているものと思われる。


続いてコデットはさらに別の部屋に入り込んで今度は裏口を確認する。こちらにはそれらしい者はいない。


「よし! 今のうちだ……!」


なおも戸惑うナニーニを引っ張り、コデットは宿の一階のやはり空いていた部屋の窓から宿の裏へと出て、そそくさと夜の闇へと消えていった。


アリシアから、こうなる想定を告げられて手筈を整えていたのである。ちなみに部屋は中からしかドアに閂を掛けることができないので、空き部屋は入ろうと思えば簡単に入れることも知っていた。


この辺りも、さすがに『蛇の道は蛇』とばかりにコデットの方が理解が早いし頭も回る。ただの村娘だったナニーニにはピンとくるものではなかっただろう。


なお、宿代は前払いでアリシアがすでに払っているので、宿屋が損をすることもない。


また、迷惑料としてチップも部屋に残してある。ただ、この時点でのコデットの信頼度が低いと、彼女がこのチップを持ち逃げしてしまったりもするというオマケつきではあるが。




一方、アリシアの方は、振り回され過ぎてすっかりぐったりとなった巨漢の男は地面に下ろし、完全に気勢を削がれた形になった者達を一人一人打ちのめしていった。


まったく勝負にならない。


ここは、アトラクション序盤の、プレイヤーが<無双>を楽しむシーンでもあるので、剣でバッタバッタと切り倒していくこともできるのだが、アリシアは途轍もない<力の差>を見せ付けて戦意を削いでいくという形で対処していたのだった。


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