勇者アリシア、盗賊に対処する

<千堂アリシア(アリシア2234-LMN-UNIQUE000)>は要人警護仕様のメイトギアではあるものの、<ORE-TUEEE!>にアクセスしているアリシア2234-HHCはあくまで標準仕様であり、しかもVRアトラクション内では、たとえ<千堂アリシア(アリシア2234-LMN-UNIQUE000)>自身がアクセスしていたとしても要人警護仕様のメイトギアとしての能力までは再現されない。


ただ、プレイヤー自身の経験に基づく知識などは反映もされるので、アリシアが持つ対人戦闘用のノウハウは実に有効だった。


「このアマぁ!!」


いかにもな罵声を浴びせながら<いかにもな盗賊>が、手斧やナイフ、普通の槍の柄を短く切り詰めた<短槍>を武器に襲いかかるが、所詮はVRアトラクションの<雑魚敵>。現実のこの種の武装強盗にすら練度で劣る。そんな<暴徒>以下の有象無象など、アリシアの敵ではない。


実際にアリシア2234-HHCのボディで対応していたとしても勝負にはならない。標準仕様のメイトギアであっても、単純な身体能力は、一部のアスリートは例外として普通の人間を上回っているし、標準仕様のメイトギアには格闘用のデータは入っていなくても今は<千堂アリシア>が動かしているので、武道の達人クラスでないと到底相手にならないだろう。


盗賊が突き出してきたナイフを手にした腕を取って引き寄せ脇に肘を叩き込む。


と同時に背後から手斧を振り下ろしてきた者には体を捻って後ろ回し蹴りを顔面に。


その蹴り足を引き寄せて今度は前から短槍を構えて突進してきた者に前蹴り。


実に無駄がなく、確実に一撃で打ちのめしていく。いかに多勢に無勢と言ってもそれはあくまで能力に大差ない場合の話。バッテリーが尽きない限りスタミナが切れることのない上に戦闘技術に差がありすぎて、十人や二十人じゃ話にもならない。


一斉にかかるとしてもそれは精々三人や四人が関の山。百分の一秒単位で連続攻撃を繰り出せるアリシアにとってはそんなもの<同時攻撃>とは言えない。


ものの一分少々で、二十人以上いた盗賊は、皆、地面に転がされてしまっていた。


「な…ななな、なんだよ、これ……!?」


ふらふらと馬車の前に歩み出て倒れたはずの少女がいつの間にか体を起こして、自分の目の前で繰り広げられる一方的な大立ち回りに、大きな目をさらに大きく見開いて呆然としている。


少女は、盗賊の一員だったのだ。馬車を停車させるための囮として使われている。


「……」


「!?」


<仲間>を全部倒した女が自分を見たことで、少女はハッと身構え、右手を前に差し出し、


「スティール!!」


と叫んだ。


が、次の瞬間、


「―――――って、武器持ってなきゃスティールできないじゃん!!」


とも叫んだのだった。


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