勇者アリシア、ナニーニと出会う
ファリ=ファール及び、ジュゼ=ファートに関する情報を手に入れ、準備万端整ったことでアリシアは、
「お世話になりました」
と深々と頭を下げ、<始まりの村>を後にする。
本音を言うとリティーレと一緒にもっとずっとおしゃべりを楽しみたかった。実はそれも可能だった。他愛ないおしゃべりを続けられるくらいの設計はされている。
「また来てね、アリシア様…!」
潤んだ目でそう言われると、
『カワイイ~♡』
とも思ってしまう。
しかしアリシアにはアトラクションの進行とはまた別に<役目>がある。残念だがいつまでもおしゃべりを楽しんではいられない。
そこに、
「勇者様! 私もお供させていただいてよろしいですか?」
と声が掛けられる。
見るとそこには、同じ皮製ではあるもののアリシアのそれよりも簡素な鎧を身に着けた、十代後半と思しき女性の姿。
<仲間が増えるイベント>
だった。
彼女は歓待の席にもいた女性で、
「ナニーニです! 剣士を目指してます! よろしくお願いします!」
と、自分を売り込んできた人物だ。
さらに、
「私に剣を教えてください!」
とも。
快活で、でもあどけなさも残る、赤い短髪のボーイッシュな少女だった。リティーレからプレイヤーのモチベーションを上げる役目を引き継ぐキャラクターである。
いくら断っても結局はついてくることになる固定のパーティメンバーなので、
「はい、いいですよ。一緒に行きましょう」
すんなり受け入れる。
『ごめんなさい! 無理です』
『そこを何とか!? 荷物持ちでも何でもしますから! 私、本気で剣士になりたいんです!』
という押し問答をする手間を省くために。
ナニーニは、
<思い込みが激しくて一度こうと決めたらテコでも動かない、アタッカー担当の猪突猛進娘>
というキャラクターだった。
もっとも、戦力として彼女が必要になることはない。プレイヤーキャラクターは非常に強力なのでどんな敵でも一人で倒すことができてしまうし。
ただ、強化用のアイテムを取り忘れたりした時には、その分の戦力を補う役目もあったりはする。
さりとて、よっぽど迂闊でもなければ取り忘れることもないけれど。
強化アイテムをわざと入手せず、<仲間>を上手く活かしてクリアを目指すという、いわゆる<やりこみプレイ>の一環としての要素も兼ねている。
そうしてついてきたナニーニに荷物を持ってもらい。アリシアは、ボーマの街へと向かう馬車へと乗り込んだ。
いよいよ、<ORE-TUEEE!>の本編が始まる。
街から出てすぐのところであの<ハートマーク模様の牛>を見つけるものの、さすがに馬車に乗ってる彼女を襲ってきたりはしなかったのだった。
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