勇者アリシア、食事をいただく
『私、食べられないんですけどね』
アリシアはそう考えたが、実はそれは正しくない、食べようと思えば食べられるのだ。VRアトラクション内では。
当然のことながら実際に食事が出ているわけじゃないので。
それに食事によってHPも回復していく。
魔獣相手ではほとんどHPも減らなかったものの、<ハートマーク模様の牛>にやられた分のHPは減っている。
だからアリシアも食べてみた。
ただ、残念ながら味がしない。
人間のプレイヤーに<味>を認識させる機能がメイトギアには適合しないからだった。人間用のデバイスでは<匂い>を合成するリキッドによって人工的に作られた料理の匂いと、味覚に繋がる神経に刺激を与えて<味>を再現するものの、<匂い>はともかく『味覚に繋がる神経に刺激を与えて』という部分がメイトギアには有効ではないのだ。
『食事を楽しむ』とはいかなかったものの、アリシアは少々苦笑いを浮かべただけでこれといってショックを受けているわけでもなかった。
一般的にはここで、
『ロボットであるアリシアがVRとはいえ食事ができると思ったら味がしなかったことで落ち込む』
ような描写がされるところかもしれないものの、擬似的に食事を楽しむだけなら実は何も難しくない。今回はたまたま人間用のデバイスが適合しなかっただけで、ロボットに適合するシステムを作ること自体はそれほど難易度の高い話でもない。
何より、高性能なシミュレーターを通せばそれでもう仮想現実ではあってもほとんどリアルのそれと変わらない食事を楽しむことができるのだ。
けれどアリシア自身がそこまで必要としていないのでここまで利用しなかっただけである。
かつて一時期、人間になることに淡い憧れを抱いたこともあったものの、今ではあくまで彼女は彼女自身のままで千堂の傍にいたいと思っているがゆえに。
なので食事も淡々と済ます。
そんな中、アリシアの視線が止まる。
リティーレだった。幼い彼女も給仕役として働いていた。
『<児童労働>と解釈されてしまうとクレームの対象になることもありますね』
ここに来てもそんなことを考えてしまうのは、彼女がロボットだからだろう。いくら感情と思われるものを持っていても法令などを無視することは基本的にできない。
ゆえに気になってしまったりもする。
とは言え、あくまでフィクション内での<演出>であることは承知してるので、彼女自身がクレームをつけるようなことはしない。
『コンプライアンスについては十分に検討されているはずですからね』
とも思う。
それに、
『頑張ってる姿がとてもキュートです♡』
単純にそう感じられるのだった。
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