復讐屋、エリナ・バーンズを拉致する

エリナ・バーンズが公園から出て監視カメラの死角に入った瞬間、<復讐屋>は動いた。


「!?」


悲鳴を上げる暇さえ与えず彼女の口を猿轡で封じた上で抱きかかえ、待機していたワゴン車へと連れ込む。


と同時に、それを走らせた。


この時代、自動車にも当然AIは搭載されており、しかも人間と同等以上の思考が行えるので、犯罪行為・触法行為には加担しないように制限は掛けられているのだが、残念ながらそれはメーカー側の、


『しっかりと防犯対策に協力しています』


という姿勢をアピールするためのアリバイ作りの域を出るものではなかったため、たやすく解除できてしまう程度のものでしかなかった。それもやがて反省され厳格な運用が行われていくようにはなっていくものの、残念ながらこの時点ではそうではなかったのだ。


「んーっ! んーっっ!?」


口を塞がれ後ろ手に拘束されて、エリナは混乱した中で必死に状況を把握しようとした。そんな彼女を見詰める覆面の男が二人。目と口しか出ていない覆面をかぶっているにも拘らず、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべているのが分かってしまう。


明らかに好色そうな視線が、男達の目的を何よりも雄弁に物語っていた。


その上で、


「近くで見るとさらにいい女だよな」


「ああ…たまらねえぜ」


などと、あまりといえばあまりにも分かりやすいことまで口にする。


しかも、男の一人は彼女のほどよい大きさの胸に手を。


たまらない嫌悪感に、エリナの全身が粟立った。男達の望みが<スリコギ>でごりごりと捻じ込むように察せられてしまい、たまらない絶望感がヘドロのように彼女を包み込む。


『イヤ…! イヤ……っ! イヤぁ……っ!!』


彼女もそれなりの年齢なこともあって経験がないわけではなかった。ただ、彼女にとってそれはのめりこんでしまうほどのものでもなかったし、ましてや好きでもない相手とだなんて、『死んでもお断り!』としか思えなかった。だから、このまま男達のいいようにされるくらいなら、


『死にたい…! 殺して……っ!!』


とさえ思った。


すると、まさかそんな彼女の願いが聞き届けられたわけではないだろうが、ワゴン車を運転していた男がバックミラー越しに後ろの様子をニヤニヤと見ていたことで前方不注意となり、前の車が減速したことに気付くのが遅れてしまった。


AIがしっかりと動作していればそのようなことは決してないというのに、男達は自分達の行いを邪魔させないように制限していたことで前方の車に急接近、それに気付いた運転手の男が慌ててハンドルを切ったことでワゴン車は大きくバランスを崩し、さらに前の車に接触したために限界を超え、まるで玩具おもちゃのように綺麗に横転したのだった。


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