JAPAN-2における犯罪発生率

復讐代行業といった闇の仕事を行うような人間が紛れ込んではいても、<都市としてのJAPAN-2ジャパンセカンド>は非常に治安のいいところだった。少なくとも酔っぱらいが道端で寝ていても朝まで財布も抜かれずに生きていられることがほとんどという程度には。


年間の犯罪発生率は人口十万人当たり一件弱。これは、軽微な窃盗なども含めた<刑法犯>すべてを含んだ数である。殺人事件に至っては、〇.〇〇一ポイントと、二十一世紀初頭頃の日本の殺人事件の割合の実に数百分の一だった。現在の人口は約一千万人。つまり殺人事件の発生は十年に一度というレベルだ。ちなみに火星全土に範囲を拡大すると、一気に五.五ポイントに上がってしまうが。これでも二十一世紀初頭頃のアメリカ合衆国レベルだろうか。


それが実現されているのは、ロボットの存在によるものが大きいだろう。人間である以上、つい感情が抑え切れなくなることは、たとえ普段は誰の目からも<いい人>で通っている者でさえある。カッとなって殴りかかったり力一杯突き飛ばすようなことはあるし、そのはずみで相手が亡くなってしまうことも無いわけじゃない。


が、ロボットは、特にメイトギアは、そういう人間の<咄嗟の感情の爆発>に常に備えているというのもあった。


ロボットだからと言って感情的になった主人に、


『こいつを殺せ!』


と命じられてもそれを実行することはない。法に反する命令については従わなくていいということが徹底されているし、そもそも法に反した命令を聞くようなロボットを作ることは禁止されている。戦闘用のロボットも確かに存在するものの、それさえ、火星で施行されている、


<紛争に伴う武力行使に関する法律>


に即したものでしかない。二十一世紀の地球では、銃やナイフは使う者がそれこそ自由に使えていたものの、火星までその生活圏とした今の人間社会においては、ナイフのような極めて単純なもの以外の多くの<武器>がAIによって制御され、法に則らない形で使われようとすると機能をロックしてしまうこともできるようになっていた。


無論、全てではないにせよ、あからさまに悪意をもってその制限をかいくぐろうとしない限り、人間を傷付ける目的で使うことはできない。少なくとも、JAPAN-2ジャパンセカンド内においては。千堂京一せんどうけいいちの邸宅に押し入った誘拐屋達が使っていたものは完全に違法な手段で手に入れた<存在そのものが違法な武器>だった。


このことが、かつての新良賀あらがによるクーデターの際に、千堂京一せんどうけいいち以外の、事件当時にJAPAN-2ジャパンセカンド内にいた重役の命までは狙われなかった大きな要因と言えるかもしれない。


まあ、千堂の件については、新良賀あらがの<千堂京一せんどうけいいちに対する個人的な強い恨み>が一番の要因だっただろうが。


だからエリナ・バーンズのように『ちょっとした外出』で、『家でメイトギアが待っている』場合などにはいちいち鍵を掛けない者は決して珍しくなかった。ゆえに彼女が特別というわけでもない。むしろそれが<普通>だった。


他の都市などに出張で出る時には気を付けていても、そのせいで逆にJAPAN-2ジャパンセカンドにいる間は気が緩んでしまうというのもあるのかもしれない。


なので、今回の件は本当に、


『運が悪かった』


というものだったのだろう。


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