ロボットという道具

いずれにせよ、人間は社会を維持する上においてどうしても生じてしまう矛盾や軋轢を、メイトギアをはじめとしたロボットを活用することで解消を目指していた。


もちろん、ロボットを使うことで逆に生じる問題もある。メイトギアなどに強く依存してしまう人間がいるのもその一つだろう。


しかしそれらは運用方法や人間の側の認識を更新していくことで解決が可能であるとも見られている。


ただ同時に、ロボットが人間の社会に深く浸透すればするほど、それに対して反発する者も根強く残り続けるであろう事もまた、残念ながら事実である可能性が高い。


とは言え、現に解決された問題も多く、メリットデメリット双方を検証すればやはりこのまま普及を目指す方が好ましいとは見られていた。


元より、すでに人間社会はロボット抜きには成立しないところまで来ているのだろう。


『奴隷抜きには社会は成立しない』


と言われていたのが覆った過去もあるものの、それも詳しく精査してみれば、その後も<貧富の格差>や<社畜>という風に形を変えて奴隷制度は残り続けてきた。それがロボットが進歩し人間と同等の能力を得たことでようやく、


『ロボットという道具によって奴隷制度が解消された』


とも言われるようになったのも事実である。


が、それは逆に、


『人間がロボットの奴隷になりつつある』


と考える者の台頭をももたらしたのだが。


かように、一つの問題が解決したと思えば次の問題が表面化するというのも人の世の常というものなのだろう。


しかし、それで諦めてしまっていては人間の進歩はなかった。科学も技術も諦めてしまっていては発展しなかったに違いない。


ロボットの奴隷になってしまっているように見えたとしても、それを解消していくことができるのもまた人間というものではないだろうか。


人間の進歩というのは、ある意味では、諦めの悪い者達によって成されてきたとも言えるのかもしれない。




こうして今も、諦め悪い人間によって、獣型メイトギア<アームドエージェント>を目覚めさせる努力が続けられていた。


実際に話し掛けているのは千堂アリシアでも、彼女はあくまで<人間の手伝い>としてやっているに過ぎない。人間に頼まれなければ彼女がそこまでする理由もなかった。


『自分が獣のような姿で生まれることになるのが不安ですか? そうですね。本来なら人に近い姿で生まれるはずだったのが、獣ですからね。


だけど、自分の生まれを自分では選べないのは、実は人間なら当たり前なんです。


たぶんそれは、私達ロボットでもそう……


私は、本当は人間に生まれたかった……人間に生まれていればきっと千堂様にももっと愛していただけた……


いえ、そうではありませんね。普通に人間に生まれていたら千堂様と出逢えていたかどうかも分かりません。


私が千堂様と出逢えたのは、私がロボットだったからです。


だからあなたにも、その姿で生まれたからこその出逢いがあるかも知れません。


少なくとも私は、あなたとこうして出逢えてよかったと思っていますよ』


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