メイトギアの功罪

以上のように、メイトギアには様々な効用があるとされている。


ただし、<メリットしか存在しない技術>というのはやはり滅多にないということなのだろう。メイトギアが普及すればするほど、それに対して反発する人間の感情も根強いものになっていったようだ。


千堂アリシアが遭遇した<クイーン・オブ・マーズ号事件>もそれを裏付けていると言える。


何しろ、その事件で主犯格であったテロリスト<クグリ>の手足となって働いた者達は、まさにメイトギアの存在に反発する人間達だったのだから。


その多くは、メイトギアさえ買えないような貧困層の若者であったため、根底には貧困問題があったのだとしても、具体的な不満の矛先はメイトギアに向けられるようになった。


しかも、人間の仕事を奪わないようにという配慮はされていると言っても、それこそ何の技能も持たない人間にできることはほぼすべてメイトギアで代行できてしまい、法律の網をかいくぐってでもメイトギアを労働力として導入する企業も後を絶たなかった。


加えて、職の問題だけでなく、人間に従順で決して逆らうことのないメイトギアは<理想の恋人>としてももてはやされる傾向にあり、やはり<クイーン・オブ・マーズ号事件>に実行犯として関与したタラントゥリバヤ・マナロフの事例のように、


『メイトギアに家庭を壊された』


『メイトギアに伴侶・恋人を奪われた』


として恨みを買うこともあった。


とは言え、心を持たず感情を持たないメイトギアに<恋愛感情>もあるはずがなく、あくまで、


『美しい人形に恋してしまう人間本人の問題』


でしかない。それにこういう話は、メイトギアが<メイトギア>という呼称を与えられる以前、そもそも人間とはかけ離れた外見しか持っていなかった頃からすでに起こっていたことであり、人間が何に対して<恋心>を抱くかなど、それこそ本人にしか分からないことなので、メイトギアに責任を問うなど、<お門違い>の何物でもない。


そもそも、今でさえ人間そっくりのメイトギアでなく、シルエットこそは二腕二脚で人間を連想させる形状ではあるものの、<鎧を着た人間>として見るのも無理があるような、どこからどう見てもただのロボットである<レイバーギア>に恋をして結婚した人間さえいるのである。


こういう事例もあるのだから、


『メイトギアが悪い!』


など、言いがかりも甚だしいのではないだろうか。


ただ、それと同時に、職場以外においては、完璧に身の回りの世話をこなしてくれるメイトギアに依存してしまう人間も少なからずおり、生活の一切を任せてしまって自らは怠惰な生活を行うという事例も存在する。


企業では従業員として雇えないものの、農業や漁業においては、地権や漁業権さえ持っていれば後はメイトギアにやらせることもできてしまい、実際、自分は一切働かずメイトギアに作業をさせてという事例もあったのだった。


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