ラフカディオ・フィリップ・ハーン、握手する
「やあ! 千堂くん! 我が社のオフィスの居心地はどうかね?」
アリシアが書類を持って机を訪れた時、ラフカディオ・フィリップ・ハーンは、百キロを超える体重を感じさせないくらいに機敏な動きで立ち上がり、机越しに手を差し出してきた。
「あ……」
しかしアリシアはそれに応えようと手を差し出しかけて、躊躇った。
なにしろ彼女はメイトギア。人間に触れると自動的にそのバイタルサインを読み取ってしまう機能がある。なので、基本的には、非常時や偶発的な接触を除き許可なく人間に触れることはない。
もちろんハーンもそれは承知している。
「構わない! 私は是非、仲間としての君と握手を交わしたいんだ!」
大きな体をしながらもまるで子供のように笑顔でそう言うハーンに、アリシアは少し戸惑いながらも、
「よろしくお願いします!」
と大きな声で返事をしながら、彼の手を取った。
瞬間、ハーンのバイタルサインが彼女に中に届いてくる。脈拍も血流も呼吸も健康そのものだった。一見すると肥満にも見えるその体だが、これは彼の生来の体質によるものであり、不摂生が原因ではない。その辺りにいる、見た目だけは健康そうでありつつ中身は、という人間とはわけが違うのだ。
だからこそ、
「君が心を得るという奇跡に立ち会えたことは、私自身、興奮を禁じえない! 私にとっても君は娘のようなものだ! 協力は惜しまない! 何でも相談してくれたまえ!」
よく通る声で話しかけながらアリシアの手を握り締めるその力は、人間としてはとても強いものだった。一見、華奢な女性のようにも見えるアリシアだが、要人警護仕様機であり、およそ生身の人間の力では傷一つつけられないことをよく分かっていて、彼の全力で応えてくれたのが伝わってくる。
「ありがとうございます!」
そんな彼に、アリシアも胸が高鳴るような気がした。
もっとも、彼女の胸の中に収められているのは、彼女自身を司るAIであって、人間のように心臓が入っているわけではないのだが。
などということもありつつ、
「これ、書類です!」
ハーンにつられて大きな声を上げながら、アリシアは書類を差し出した。
「おお、ありがとう! ご苦労様!」
やや大袈裟にも思える身振りで書類を受け取り、彼は再びアリシアの手を握り締めた。
まさに<豪放磊落>という言葉がこれほどぴったり来る人間もそうはいないだろう。
エネルギッシュなハーンの姿に、アリシアは満面の笑顔を浮かべていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます