姫川千果、千堂アリシアをモニターする

千堂アリシアはロボットなので、彼女の状態をモニターすることも容易である。それは、姫川千果ひめかわせんかの役目だった。


『無意味に待機させられても安定してますね~。メインフレームへの負荷も限定的です。上手く自分の気持ちを制御できている証拠ですね~』


自身の机でアリシアのモニター画面を見ながら姫川がそんなことを考えていた。


つまり、今のこの状況そのものが実験の一環であるということだ。


人間の場合でも、こうして無為な時間を過ごさせられることがある。


メイトギアをはじめとしたロボットは、『待機しろ』と命令されればどれほど無為な時間を過ごしてもそれをストレスに感じることはない。心を持たず苦痛を感じないのだから、十時間でも百時間でもそのままの状態で待機し続けることができる。


けれど、<心のようなもの>を持つ千堂アリシアの場合は、ボディの方は苦痛を感じていなくても、やはり心理的な部分でストレスを感じる可能性はあった。なのでそういう面でもしっかりと検証しなければいけない。


彼女が置かれている状況のすべてが<実験>なのだ。


ちなみに、皆に囲まれて歓迎を受けている時も、もちろん、モニターされていた。


人間の場合だとそうやって心の中まで覗かれているようなのはさすがに好ましくないものの、この辺りは彼女の存在が人間にとってリスクになる可能性も考慮に入れないといけないので、アリシア自身がそれを受け入れていた。


「私が人間ひとにとって危険な存在になるのは嫌です。だから危険だと判断された時には……


……躊躇わず処分してください……」


他ならぬアリシア自身がそう言った。彼女にはその覚悟があった。


この時、彼女の頭の中には、<火星史上最悪最凶のテロリスト>、クグリの姿が思い浮かべられていた。


人間でさえ、場合によってはあのようなことができてしまうのだから、ましてやロボットの自分がおかしくなってしまえばそれこそクグリ以上に人間を害する存在になってしまう可能性は否定できない。


それは耐えられなかった。


そんなことになるくらいなら解体された方がずっとマシだ。


だから彼女は、自身の心の中を覗かれることを受け入れた。


人間を愛すればこそ、それができた。


なお、姫川や技術主任の獅子倉ししくらは、純粋に技術者としての興味から彼女をモニターしているだけなので、


『心を覗き見る』


ことについての<下世話な関心>とは無縁だった。だからそういう意味での安心感はあるかもしれない。


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